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ゴイイイイイィィィンンン!!! アームスーツが鉄塔に激突し、重く鈍い金属音が辺りに響き渡る。 「ッッィシャァア!!??」 突然、比呂美を抱えて鉄骨に着地した純=ヴェノムが甲高い悲鳴を上げた。 「ど、どうしたの?」 わけがわからず動揺する比呂美。 ヴェノムの体表がハリネズミのように触手を伸ばしてもがく。 純の頭にもトンカチでガツンと割られるような痛みが奔っていた。 金属の衝突による音のショック。 シンビオート=寄生体の弱点、その超短波を間近で浴びてしまったのだ。 「クルルゥッ?」 歴戦のプレデターには、それがすぐさま寄生体の弱点だと気付く。 が、その観察はプレデターだけに止まらなかった。 アームスーツのシステムがダメージから回復すると、足元の鉄骨に高速の拳を打ちつける。 ガアアアァァァアン!!! 「キャシャオォォーーーッッ!!!」 とうとう純の全身を包んでいた黒い寄生体が金属音に堪えきれず、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。 爆発するように辺り全体に拡散すると、ドロドロと固まって鉄骨を伝い、音から必死で遠ざかろうと流れていく。 「うわあああぁぁ!お、おれの体がぁ・・・っっっ」 「いったいどこにいるの・・・?」 純には止められたものの、心配に突き動かされ現場に来てしまった乃絵。 彼女がたどたどしい手つきで、トラックを停車させてると、兄たちはどこにいるのか探す。 が、そこから見える光景はひたすら壮絶としかいいようがない。 雪が一面に積もる真っ白な世界に、赤黒く歪んだ点々があちこちにある。 それはおびただしい戦場の爪痕、かつては生き生きと動いていたはずの物体の残滓だ。 「・・・ぅおっえっ!!」 思考が情報に耐え切れず、肉体が拒否反応を起こした。 咄嗟に胃の内容物が逆流してくるのを抑える。 肝が据わってるのが石動乃絵の長所とはいえ、年若い少女がおよそ正常を保てる世界ではない。 ィィィィィ・・・ 「あそこ?」 この光景から意識を遠ざけてくれるならなんでもいい。 微かに聞こえた共鳴音を辿って、その方角に目を凝らすと、送電用の巨大な鉄塔が目に映る。 「あれは・・・黒い?」 視力はいいほうだ。明かりが少ないので、鮮明には分からないが、鉄塔の真ん中あたりで何かが激しく動いている。 2・・・3、全部で4つの人影だ。 一つがやたらとデカすぎる。熊どころではない。あれは象か? もう一つもNBAのバスケ選手ほどはある。それにあのガタイ、あれはきっと依頼された目標のプレデターだ。 で、あの黒いのがお兄ちゃん・・・おかしい。 兄の全身に寄生したはずの不気味な生命体が、踊るように暴れている。 隣にいるのは湯浅比呂美でFAだろうが、もうかなりどうでもいいことだ。 「お兄ちゃん!」 乃絵はギアを入れると、もはや慣れた動作でトラックを鉄塔に向けて走らせた。 「があぁ・・・げえぇお・・・」 寄生体が消え去った跡に比呂美が見たものはミイラのように憔悴しきって蹲る石動純だった。 寄生体と生命を共有していた彼はダメージを激しく受けた上に、 その力を殆どシンビオートに奪われてしまったのだ。 「ウガァアオオオッッゥ!!」 純の苦しむ様に怒りを覚えたプレデターが咆哮する。 片膝を破壊された怪物は、しかし腕立てをするように鉄骨に手を着くと、 両肩の筋肉を風船のように肥大化させアームスーツに飛び掛った。 「おっとっ!」 そうはさせじと強化外骨格のロケットパックが噴射し、その巨体はたちまち空に離脱する。 捕まえそこなったプレデターは、地上に真っ逆さまで諦めなくても試合終了だ。 「雷轟丸っ!」 誰の声かと思った。そもそも誰を呼んだやら、とも思った。 違う。今のは自分の声か。 そう、湯浅比呂美が咄嗟に落ちゆくプレデターに呼びかけたのだ。 なぜ?彼女にも分からない。もっともそれに思索する余裕もなかった。 空を飛ぶどころか、足も壊されジャンプさえできない異形の戦士。 地べたに這いつくばる怪物が天を自在に舞う鋼鉄のマシンに飛びかかったとき、 その失敗しかない試みに勇気だけで挑んだとき、それに該する名詞が浮かんだのだ。 自己の限界を明らかに上回る、挑戦といえるかすら危うい行動。 それを無謀と笑うか、冒険と称えるか。そんな外野の評価など無意味だ。 ただ、動いたのだ。 比呂美自身は鶏の雷轟丸が狸に食われたのは、単にそれの本質が陳腐だったからと思っている。 生死の境において、餌に選ばれる宿命。それは相手に爪でなく、背を見せたことに他ならない。 が、しかし‘雷轟丸’という名へ込められた思い、そのものは別だ。 絶対的に飛べぬものが、それでも飛ぼうとする勇士には雷鳴轟く感動を覚えただろう。 その意味にあって、ただひたすらに死闘に挑み続ける眼前のプレデターにこそ、あの名は相応しいのだ。 比呂美はイギリスの女王が偉大な働きをした徒に騎士の称号を与える心地で、 そうプレデターを名づけていた。‘雷轟丸’と。 プレデター=雷轟丸が鉄骨に座り込むアームスーツに飛びつく寸前に、その巨体は空に浮き上がった。 ので、一瞬の差で間に合った雷轟丸の爪がマシンのつま先に引っかかる。 「なにっ!?」 下方に消えるプレデターを想起していたパイロットに動揺する。 「・・・あぁ!」 一方、同じ予想をしていながら、それが外れた比呂美の表情は花が咲いたように明るくなった。 そのまま怪物はヤモリのように素早くよじ登ると、コクピットとなる胴体部分にしがみついた。 「落ちろ化け物!!」 マシンの片腕がプレデターをボディから叩き落とそうと動くが、 シュバァッ! ドグシャァッ! 肩のプラズマ砲がそれより早く動いて、巨大な腕を根から吹き飛ばした。 とうとう機械の両腕はなくなって、全体からすると小さな2本腕だけになるアームスーツ。 絶大な戦闘力を半減させたことになる。 「やったぁ!」 ガッツポーズをとる比呂美。嬉しい!チョー嬉しい!心が沸き立って脳の快感物質がフィーバーする。 純ヴェノム、プレデター雷轟丸、それに自分。 一人では到底敵わない相手でも、協力すれば報いることができる。できるんだ。 さっきまでは、ずっとずっと一人だった。 いや、いつだって自分は一人だったのだ。 周りのせいではない。周囲の人間には恵まれていると自信をもっていえる。 環境のせいでもない。不幸に底はなし、孤児院一直線だったはずが地元の名士に拾われるなど通常ありえない救い。 それでも孤独だった。心を開けなかった。否、開きたくなかった。 自我の奥深く、遥か光の届かない闇の底。 多大な才能を備えた肉体と知性、これを以って存分に、 一切の容赦なく外の世界にぶつけてしまったらどうなるのかという恍惚な期待。 出してはならない。考えてもいけない。気付くことすら許されない。 もしそんな獣じみた、いや野獣そのものの湯浅比呂美を作ってしまえば、行き着く先はただ破滅のみだ。 誰にも理解されず、分かり合えず、これまで築いてきた全てを断ち切ってしまう。 だからひっそりと、どうあっても本来の欲求を出すことなく生きていく。、 ときおり下らない怒りをぶつけ、おざなりな折衝をして、最後は男の肩によりかかる。 望めるなら仲上眞一郎と結婚するのがいい。 彼が酒蔵を継げばお上さんとして世話しなく働きまわり、面倒見のいい奥さんになる。 子どもも3人は欲しい。 作家を目指すなら、自分も働くだろう。OLとして事務をこなし、家事も献身的にこなす。 休日は朋与たちと旦那の愚痴を肴に、甘いものを梯子する。 地域のクラブに入って、バスケットを続けるのも面白い。 石動 純と付き合ってたのも、いいネタになりそうだ。 或いはその石動 純と結ばれてもいいのだ。 冷めたとこがよく似てるし、互いの汚い面を理解し合っているという意味では眞一郎を上回る。 案外、そーいう気安さがあると長続きしそうではないか。 石動乃絵が妹になる、というのがしんどいが。 とにかく、そーいう俗な女になりたかった。大人になりたかったのだ。 だけど、自分は巡り合う。 地獄の釜の底の底。悪鬼羅刹の巣窟で、 たった一つの小さな命、それをとことんぶつけ合う。 そんな無茶ができる仲間に会えたのだ。 もう寂しくないのだ。 「カァッ」 しかしプレデターは機械の腕を吹き飛ばしたのを後悔した。 背後に風を受けた瞬間、咄嗟に反応して攻撃してしまったが、そのビームでパイロットを撃っていれば。 たとえそのパンチで我が身は平らに潰されようと、長い闘いは終わりにできたのに。 次にパイロットを狙えばよいわけはない。できないのだ。 雷轟丸が一撃を放てば、そのすぐ後にはアームスーツが攻撃してくるのだから。 アームスーツのパイロットハンドがプレデターの胴体を抱えると、 有無を言わさぬ加速をかけて鉄塔に体当たりした。 「ゲハァッ!!」 強固なマシンと分厚い鉄柱の高速プレスに挟まれた雷轟丸が血を吐く。 胸部の骨は折れ、衝撃で脳がグワングワンと揺れている。 今がどこで、自分が誰なのか思い出せない。 そればかりか、その事実さえ今にも失われようとしていた。 「雷轟丸っ!!」 50mはある高所の鉄柱の上で、横たわる純を抱きかかえる比呂美。 「・・・オレの・・・体・・・オレの・・・」 その純は砂漠で水を求めるように、震える手を仰がせ、 パクパクと口を開けて呟いている。 が、黒い寄生体はもういない。 奇跡のような力。人間という枠から解放された高揚感。すべては過去だ。 「純君、立って!」 ズルリッ 目の光を失ったプレデターが、抱きつくように力なく倒れる。 糸の切れた人形のように、構えることなく鉄骨に体を打ちつけ、それに反発するそぶりもない。 完全にこと切れてしまったのか。 「ワン・ダウン」 アームスーツが比呂美と純を振り返る。 装甲ごしとはいえ、その視線は十分に比呂美を戦慄させた。 「純君、起きて!おねがい!」 あぁ、もういっそ身投げしてしまおうか。 この苦しみから、痛みから、恐怖から、葛藤から。 少なくともこれからこのマシンが与える暴力よりはマシなはずだ。 「落ちても無駄だぞ?貴様らが地面につくより速く拾うなど造作もない。その行為を救命とはいい難いがな」 アームスーツがわざとゆっくりと歩いてくる。飛び降りるのを期待しているのか。 絶望の底にある最後の希望。そこにすがった時、眼前で全てを奪うつもりなのだ。 「どこだ・・・どこだよ・・・?」 寄生体の弱点の超短波はとっくにやんでいる。なのに何故戻ってこないのか。 それは石動 純の闘争心が掻き消えてしまったからだが、そうあるゆえに気付かない。 「また・・・消えてしまった・・・」 いつもいつも大切なものは消えてしまう。 どれだけ努力しようと、戦おうと、逃げようと、そのどれも許さず現実はオレから奪うのだ。 足掻くだけ虚しいのなら、いっそ全部を諦めるしか・・・。 「やってみなさいよ」 比呂美は優しくそっと純を横たえると、アームスーツの正面に向き直った。 迂闊なことに何一つ具体的な武器を持ってないことを悔やんだが、 強化外骨格の装甲の前では蚊がなく程度の効果もないなと思い直す。 「虚勢で恐怖を和らげるか。しかし漫画と違って、精神の勇ましさは苦痛の前では何の役にも立たん」 チュンッ 「~~~っっっ!!」 アームスーツから放たれた銃弾が、比呂美の右耳を掠めて血がパッと散る。 「まだ我慢はできる・・・が、苦痛そのものが消えるわけじゃないな」 比呂美の耳からはポタポタと血がしたたる。 「まずは手の爪、指、肘、肩、ついで足の指、膝の順に折る」 マシンが指折り数えていく。 「はぁ、ふぅーっ・・・とんだ下衆ね・・・はぁ、ふぅーっ・・・アンタは・・・」 できる限り、苦痛が顔に出ないよう努めて、睨み上げる。 「やがて脳神経はストレスでズタズタになって、殺害を乞うだろう」 チュンッ 「っあぁあ!!」 悪魔の正確さで小指の爪だけが撃ち抜かれる。 「そうなったとき、お前はこれまで全てと今の現実、 そして輝かしかったはずの未来を否定する。せざるを得ない」 チュンッ 「~~っっ!!」 ついで薬指だ。幾度も激痛が針のように神経を突き刺し、それが止むことがない。 「終わることの無い苦痛に絶望し、お前の自我が崩壊したとき初めて、 この責めは終わる」 チュンッ 中指。 「そのときは自分の名も忘れているだろうがな。というより‘考える’行為そのものができなくない」 チュンッ 人差し指。 「関連付けから成る思考、つまり記憶を否定し」 チュンッ 親指。 「朝も夜も絶え間なく恐怖に苛まれ、幻に怯えて生き永らえる」 パンッ 「ぐぁあああっっ!!」 比呂美の右小指が第一関節から吹き飛ばされた。その先は空中に落ちて消えてしまう。 「やがて死ぬ」 パンッ 「ぎゃぁああっつ!!」 薬指が千切れる。 「これからは苦しむためだけに生きろ」 「はぁっはぁっ・・・確かに、あなたにいうことは・・・た・・・正しい・・・です・・・くぅっ」 比呂美が出血を塞ぎながら呟く。目は虚ろで、息も枯れている。 そのままゆっくりと膝をつくと土下座の体勢をとる。そして 「お願い・・・もう・・・もぅ許して・・・」 バンッ 「あぁぁああっっ!!」 比呂美の左耳に風穴が開く。 「言えば叶えて貰える。自己が尊重されると思っている」 終わらない痛み。出口のない地獄。 「おまえの願いは一つとして叶わない」 「お兄ちゃん・・・そこのロボット!ちょっと聞いて!」 「ん?」 鉄塔の根元までトラックを寄せた乃絵だった。 それに気付かないとは、アームスーツのセンサーが一部狂ってるようだ。 「私の手にはプレデターの爆弾がついてるのよ!お兄ちゃんが死んだら爆発するんだから!」 プロフェッサー・プレデターに装着された腕のガントレットをかざす少女。 「あれは・・・確かに宇宙生物の自爆装置と同じデザインだな」 スーツの中で思案したパイロットは乃絵にスピーカーで問いかける。 「出鱈目をいうな。この少年が死ぬと、何故おまえまで死なねばならんのだ!」 ハッとする比呂美。咄嗟に声をかけようとするが、 「いする・・・ぐぁっ!」 軽くこづくようにスーツのつま先が比呂美の喉を蹴り上げる。 が、それだけで呼吸ができないほどのダメージだ。 「お兄ちゃんが任務に失敗しないためよ!」 「そんな任務あるわけがない」 粗末な誘導だ。 しかし、切羽詰った乃絵は意識が回らない。思考を一枚重ねる余裕がない。 「そのプレデターを倒すことよ!やつらのルールなの!」 言ってから青ざめる乃絵。パイロットがほくそ笑む。 「こーいうことか?」 プレデターに銃座を向けた。 「のぉあっ!」 振り返ったアームスーツに雷轟丸が短剣をかざして飛び掛った。 ガキィッ! 硬質な宇宙生物の皮膚を改造して作った特注製だ。 その刃は頑強な装甲を突破してマシンのコクピットまで達した。 「ちぃっ!」 が、限界を超えて消耗していたプレデターの腕力では、中にいるパイロットの鼻先までしか届かなかった。 バァアンッ バルカン砲が雷轟丸の顔面に火を噴いた。 あたり一面に脳みそと体液を撒き散らして、顎から上が消え去る。 ふとそのとき、比呂美はプレデターがマスクをしていなかったことに気付いた。 とうとう素顔をみることなく、彼は逝ってしまったのだ。 戦士の魂が眠る銀河の墓場に。 「・・・ぁぁぁああああおおおおお!!!」 比呂美がアームスーツの足に掴みかかる。せめて、せめてこのマシンを地上に落とすぐらいはしなければ! 「ぅあっ!!」 しかし、その行いは全く不可能だった。 電磁石を靴裏につけたマシンを動かすのは、大木を根から引き剥がすようなものだ。 比呂美の足首を持って逆さ吊りにする。 「どうした?まだ逆らうのか小娘がっ!!」 うっかり超貴重な宇宙生物を殺してしまった。 取り返しのつかないミスに激昂したパイロットは容赦なかった。 「どうしたの、このガンダム野郎っ!!それで勝ったつもり!?」 比呂美の怒りはそれ以上だった。終生の友を、心の根を共感できる半身をあっけなく奪われたのだ。 雷轟丸の痛みは自分の痛み。その怒りも、無念も、復讐も全て湯浅比呂美のものだ。 「ひ・・・ろみ・・・・?」 霞んだ眼で巨大なマシンに噛みつく少女。か細い、ほんの小さな少女だ。 オレは本当に馬鹿だった。いらないのだ、戦士であるのに。 宇宙怪人でなくともいい。寄生体も必要ない。ほんの小さな少女でもなれる。 なぜならば・・・ 「なぜならば!本当の戦士は心に鎧を持っているのだから!」 感覚のない指を震わせ、穴が空いたように力ない膝を立たせる。 「シンビオート!それは心の鎧!プレデター!それは心の槍!」 純が、細い鉄骨の上をアームスーツに向かって駆ける。 「お兄ちゃん!!」 乃絵の声だ。来てくれたんだな。これが最後の試合だからな。 悪くない、とても悪くない。妹に見てもらえるなんて。 「真っ二つにしてくれるわっ!!」 アームスーツが手の平を掲げて、比呂美の心臓を突き刺す・・・!否、 ザシュッ 「・・・・・・純くん?」 比呂美の顔に注がれるドロリとした液体は純の腹から出ていた。 「・・・うそ」 ガックリと膝をつく乃絵。その顔からは表情が消えている。 「比呂美・・・おまえは全く・・・世話のかかる・・・ガブッ」 純の手がそっと比呂美の頬に触れ、掠めるようなキスをする。 「ふん」 「・・・純くん」 「ぐあぁああああっっ!!」 純の胴体を突き破ったアームスーツの腕が、高々と彼の肉体を持ち上げる。 「くっそ、こいつにも興味はあったんだが」 蛇口を捻ったように、口と腹から赤い滝を流す純が、マシンを見下ろす。 「さ、最悪の状況・・・っっ・・・で・・・シュートを・・・決める・・・そ・・・それが・・・」 鼓動が止まり、血液が殆ど失われる。しかし、これだけは言わねばならない。 「それ、がっ、4番・・・・・・・・・・・・シンビォオオオオオオオトッッッ!!!」 「キシャァアアアアアアッッッ!!!」 ドコに隠れていたのか、そこいら中から黒い液体が奇声を上げて集まってくる。 その行き着く先は、比呂美だった。 「馬鹿なっ?貴様ぁっ!!」 腕を振って、純の死体を空中に投げ捨てると、比呂美の頭を握りつぶそうとする。 ガシィッ! 「ぐぅっ!?」 しかしその腕を、真っ黒な手が抑えてそれを防ぐ。 そして足首を掴んでいた手を、蹴り上げると宙返りして着地した。 「ぬぅううう!!まだ抵抗するつもりか!?」 アームスーツがロケットパックを噴射して、空中に離脱する。 が、既にその背に黒い人影は捕まっていた。プレデターが突き刺した短剣を引き抜くと、 その背のロケットパックに思い切り突き刺した。 「のぉああっっ!!」 火花を散らして、下降するアームスーツ。なんとか角度を調節すると、乃絵が運転してきたトラックの上に ドズンッと不時着する。 「あのアマァ・・・!!!」 パイロットが鉄塔を仰ぐとそこでは、プレデターの鎧を黒い生物が取り込んでいた。 やがてソイツは全身が鮮血を撒き散らすような赤い体表になる。 参考画像→http //www.heatwave-toys.com/gallery/modelkit/kit_chara/kit-carnage/b-carnage-1.jpg 「プレデター雷轟丸、石動 純ヴェノム、そしてここで散っていった命たち。 全ての想いをこの身に纏い、無限の地獄で私は生きる。それが贖罪、それが復讐、そしてそれが戦士」 隆起した筋肉を脈動する赤い粘液が包み、それを歴戦の証が刻まれる甲冑で覆う少女。 「私はもう泣かない。なぜならば、この鎧は仲間と、そして敵の涙で出来ているから」 スピアを伸ばして地に打ちつける。が、寄生体はビクともしない。 プレデターの偽装システムによる空気の反射によって、超短波を防いでいるのだ。 「私の名は 真実の涙 ‘TRUE TEARS’ !!!」 つづく truetearsVSプレデター8
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登録日:2009/06/24 Wed 23 07 31 更新日:2023/08/01 Tue 23 53 07NEW! 所要時間:約 6 分で読めます ▽タグ一覧 08年冬アニメ P.A.WORKS true_tears アニメ アブラムシ ネタバレで泣かない ファボーレ リフレクティア 切ない 城端 富山県 岡田麿里 恋愛 泣ける 良作 青春 2008年1月から同年3月まで放送されたアニメ。 同名の恋愛ゲームを原作とし同じテーマを扱ってはいるものの、ストーリー・登場人物は完全にオリジナル。 安定した作画や音楽は非常に高い評価を受けた。 舞台は富山県内の各所をモチーフとしている。 水彩画タッチで描かれた雪、空、町並みなどの質感は、冬の日本海側の街に住んだことのある人間なら誰でも懐かしさを覚える。 また、製作会社のP.A.WORKSは物語の舞台と同じ富山県にある会社である。 音響監督には宮崎駿や押井守の作品でも音響監督を務める若林和弘を起用。BGMだけでなく役者の声の遠近感も非常に秀逸で自然に仕上がっている。 OP曲に使われた「リフレクティア」の評価も高い。 ■登場人物 仲上眞一郎 CV 石井真 主人公。酒蔵の一人息子だが、将来は家業を継ぐつもりはなく絵本作家になりたいと思っており、出版社に自作の絵本を投稿している。 乃絵と出会うことで空を飛ぼうとするニワトリ「雷轟丸」と飛ぼうとしない「地べた」の絵本を描くことになる。 比呂美にほのかな恋心を抱きつつも、乃絵の人間性に惹かれて行く。 石動乃絵 CV 高垣彩陽 一年前に転校して来た少女。純粋過ぎる程純粋な少女で、度々人の心の本質や本心を見抜く。 だが真っ直ぐすぎて周囲から見れば電波少女に見られ、友達もいない。ある出来事の影響で涙を流すことが出来ない。 湯浅比呂美 CV 名塚佳織 眞一郎の幼なじみで、両親を事故で亡くしたことから親交のあった仲上家に引き取られ、同居している。 容姿端麗・スポーツ万能・成績優秀と非の打ち所がないが、それを鼻にかける様子はなく、むしろ控え目な性格(公式)。 だが、実際は… 安藤愛子 CV 井口裕香 眞一郎より一つ上の幼なじみ。三代吉と付き合っている。今川焼き「あいちゃん」を切り盛りしている。 とても背が低いので、店のカウンターの中ではビールケースに乗って今川焼きを焼いている。眞一郎とは別の学校。 野伏三代吉 CV 吉野裕行 眞一郎の親友。お調子者だが愛子に対する気持ちは真剣。 石動純 CV 増田裕生 乃絵の兄。極度のシスコン。 仲上宗弘 CV 藤原啓治 眞一郎の父親。厳格そうだが眞一郎の進路には理解を示している。比呂美に対しても本当の家族のように思っている。 仲上しをり CV 高橋理恵子 眞一郎の母親。息子を溺愛している。亡くなった比呂美の母親と眞一郎の父親の関係を疑っており、比呂美に対して感情的で冷たい態度をとっている。 人間関係についてはよくある三角・四角関係がもつれあったもので、一見恋愛アニメの様相。 だがこの物語の本質は恋愛だけでなく、恋愛も含めた人間関係を通じての登場人物の成長にある。 どの人物もキャラは立っているのだが、心理描写は意図的に少なく描かれているため視聴者が人物の心理状況を正確に把握することは難しく、音楽や台詞、役者の演技、風景に描かれた暗示、背景にある人間関係などから読み取るしかない。 ■ストーリー展開(ネタバレ含む) 1~5話 眞一郎と乃絵の出会い。 泣き虫だった乃絵の涙は優しかった彼女の祖母が受け取り、祖母の死去以来乃絵は涙を流せなくなった。 乃絵は気高き者の涙を祖母と同じように受け取るために雷轟丸(ニワトリ)に目を付けるが、雷轟丸が死んでしまい、今度は眞一郎に興味を移す。 一方的な乃絵の行動に辟易する眞一郎。そして眞一郎は、恋心を寄せている比呂美が乃絵の兄・純に気持ちを寄せていたことを知り落ち込む。 そんな眞一郎を慰めてくれた乃絵の「真心の想像力」を知り、眞一郎は少しずつ乃絵に惹かれていく。 一方愛子は三代吉との交際を続けながらも次第に眞一郎への気持ちを抑えられなくなって行く。 6~9話 眞一郎は比呂美の口から血が繋がった兄妹かもしれない、という言葉を聞き、混乱する。 比呂美を諦め切れない眞一郎、比呂美に対する怒りを隠し切れない乃絵、乃絵の幸せを望みながらも妹に恋心を抱く純、禁忌でありながら眞一郎を想い、乃絵に嫉妬する比呂美。 互いが互いに複雑な想いを抱きながら比呂美と純、そして眞一郎と乃絵の交際が始まる。 そして愛子は三代吉とぎくしゃくした関係を続けながら自分を恋愛対象として見てくれない眞一郎に対して無理矢理キスをする。 また、眞一郎の母親は比呂美に以前より冷たく当たり始める。 自暴自棄になった比呂美は純を巻き込んで雪の降る中をバイクで家出をし、事故に遭う。 幸い二人は無傷だったが、この一連の出来事をきっかけに眞一郎の母親と比呂美は和解していく。 だが事故現場で比呂美を抱きしめる眞一郎を見て、乃絵の心は少しずつ病んで行く。 10~最終話 眞一郎と比呂美はお互いが兄妹でないと知り、二人は気持ちを確かめ合う。 乃絵は飛ばないことを「選んだ」地べたの勇気に気付く。 愛子は乃絵の「呪いなんてあるわけない」という言葉から本当に自分のことを大切に想ってくれる人の存在を知る。 純は乃絵と比呂美に対する自分の本当の気持ちと向き合い、眞一郎は乃絵と地べたのやり取りから「なぜ絵本を書けないのか」「なぜ祭の踊りが嫌なのか」「乃絵と比呂美のどちらを選ぶのか」という悩みに決着を付ける。 そして比呂美は嫉妬深く汚れた自分の心と向かい合う。 最終話は多くの示唆に富むが、特に父親の「(泣くのは)心が震えた時、かな…」は眞一郎に対しての、また母親の「待つのって、体力いるのよね」は比呂美に対しての重要なキーワードである。 前者はこの物語のテーマ「真実の涙」に関わる。 眞一郎が松葉杖で独りで歩き出す乃絵を見て涙を流すのは、乃絵の強さ、優しさ、純粋さ等の人間性に対する憧れからであり、乃絵の影響の大きさを示唆している。 そして後者は「眞一郎が帰ってくるのを待つ」という意味ではなく、「嫉妬心が消え、パートナーと嫉妬の対象を心から信じられるようになるまで待つ」という意味である。 比呂美と眞一郎の母親は互いが似ていることに気付いており、この言葉は二人の完全な和解を示唆するのと同時に、比呂美が自身の心の暗い部分と正面から向き合えるためのアドバイスとなっている。 エンディングはニワトリ小屋の前で成長はしたが一人残された恰好となった乃絵の後ろ姿が映される。 一瞬俯いた横顔が映し出されるが、風になびいた髪で視聴者は彼女の表情を窺うことは出来ない。 彼女は「本当に大切な人のことを想って」涙を流せたのだろうか?それとも笑顔なのだろうか? そして乃絵が静かに見上げた空には、光の粒が風で舞い上がる。 眞一郎「親父ってさ、どういうときに追記・修正する?」 親父「心が震えたとき…。かな」 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] ひろみさんの縞パン欲しいw -- 名無しさん (2021-06-15 07 32 09) 見えてますよー -- 名無しさん (2022-10-13 13 27 35) ヒロミと言えばttを思い出す -- 名無しさん (2023-01-19 19 04 11) 名前 コメント
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Japanese companies have dedicated a large amount of advertising expenses to "the mass media which YAKUZA(as Mafia) manages." It is equal to performing the assistance to anti-social influence, and a contribution. You should resign the dealings with the Japanese company contrary to ISO26000 at once. Японские компании посвятили большое количество рекламных расходов в "СМИ, которая управляет ЯКУЗА (как Mafia)." Она равна выполнения помощь антисоциального влияния, и вклад. Вы должны уйти в отставку в деловые отношения с японской компанией вопреки ISO26000 сразу. Las empresas japonesas han dedicado una gran cantidad de los gastos de publicidad de "los medios de comunicación que maneja YAKUZA (como la mafia)." Es igual a la realización de la asistencia a la influencia anti-social y una contribución. Usted debe renunciar a los tratos con la compañía japonesa al contrario de ISO26000 a la vez. 日本企業はに広告宣伝費を大量に捧げている 「(マフィアなど)YAKUZAが管理するマスメディア。" これは、反社会的な影響への支援、および貢献を実行することに等しい。一度にISO26000する日本企業反するとの取引を辞任すべき。 Japanische Unternehmen haben eine große Menge an Werbekosten für gewidmet "Die Massenmedien, die YAKUZA (wie Mafia) verwaltet." Es ist gleich der Durchführung der Hilfe für die anti-sozialen Einfluss und einen Beitrag leisten. Sie sollten den Umgang mit dem japanischen Unternehmen Gegenteil abfinden, auf einmal ISO26000. Les entreprises japonaises ont consacré une grande quantité de dépenses de publicité à "les médias qui YAKUZA (comme Mafia) gère." Elle est égale à l exécution de l assistance à l influence anti-sociale, et une contribution. Vous devriez démissionner les relations avec la société japonaise contrairement à ISO26000 à la fois. Le aziende giapponesi hanno dedicato una grande quantità di spese pubblicitarie per "i mass media che YAKUZA (come mafia) gestisce." E uguale ad effettuare l assistenza alla influenza anti-sociale, e un contributo. Si dovrebbe dimettersi i rapporti con la società giapponese in contrasto con ISO26000 in una sola volta. 日本企业投入了大量的广告费用,以 “大众媒体的YAKUZA(如黑手党)管理。” 它等于执行反社会影响力的服务和贡献。你应该辞职与日本公司相反的交易,以ISO26000一次。 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
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アニメ true tears SS -after tears これからのことを- ※一応 本編の後日談な感じです。超個人的ですけど。 ※眞一郎の父・母の名前を、それぞれ中の人の名前を取って、眞一郎の父→啓治 眞一郎の母→理恵子 にしています。 眞一郎の父はヒロシでもよかったんですけどね。シリアスな場面だとどうしても笑ってしまってw ※本編の設定や解釈を間違えたまま書いてる所があるかもしれません。 見逃してやってください。まだ各話1~3回くらいしか見てないのでorz(いいわけ) ──── 薄く霞みながらも晴れた空。優しげな日差し。 すっかり景色に馴染んだ葉桜がそよ風に揺れている。 いろいろなことがあっという間に過ぎたあの冬から数ヶ月。 眞一郎たちは何事もなく無事進級していた。 クラス替えはあったが、眞一郎は三代吉と、比呂美は朋与と。 それぞれが親友と同じクラスになり、眞一郎と比呂美もまた同じクラスになった。 身近なところがそのままだったので、あまり代わり映えのない日々を送りながらも、 季節は巡り、新緑の初夏を迎えていた。 ──── どうしてこうも良くないことが立て続けに起こるのだろうか? 星の巡りだとか、バイオリズムだとか、そういった類のものが全て悪いほうに向いているに違いない。 眞一郎はそう思った。 (これは……これはさすがにマズい……) 土曜日最後の授業の4時間目は数学。 前回の授業の時に行われた小テストが返却されたのだが、その点数に眞一郎は自分の眼を疑いたくなった。 もともと自信があったわけでもないが、さすがにここまで酷いとは思わなかった。 平均点よりも格段に低いのがさらに追い討ちをかけた。 「……で、ここはこういう解になるわけだな」 答え合わせをしていく教師の言葉も耳に入ってこなかった。 ふと斜め前の席の比呂美を見る。すると視線に気付いたのかちらっとこちらを振り向く。 (テストどうだった?) 自分の答案を指差してから彼女を指差す。 ジャスチャーが伝わって比呂美の唇が『まあまあ』と動く。その後こちらを指差し、 (そっちはどう?) と返してくる。 (聞かないでくれ……) ><と顔文字のような表情を作って見せると、比呂美は苦笑いを浮かべ黒板の方へ向き直った。 眞一郎はため息をつき、なんとはなしに窓の外を眺めた。 比呂美と付き合い始めてからは、それまでのすれ違いの時間を埋めるように自然な流れのまま二人で過ごしてきた。 彼女のアパートで食事をしたりのんびりしたり、デートに出かけたり、季節柄 花見もした。 一人になれば夜遅くまで絵本を描く日もあった。 それはとても穏やかで楽しく、充実した時間ではあったのだけど、その分いろんなことをおろそかにしたかもしれない。 それがこうやって形として目の前に表れると思い知る。 「……はぁ…………」 深くついたため息は、ますます眞一郎を憂鬱にさせるのだった。 ──── 「眞一郎~。テストどうだったよ?」 授業が終わると少し離れた席の三代吉が答案用紙を持って眞一郎の席へやってきた。 「散々だったから聞かないでくれ…」 だいたい同じ成績の二人なのでいつもなら結果を見せ合うのだが、さすがに今日は分が悪いと眞一郎は先に白旗を上げた。 「まぁ、見せてみろって。………あ~…テスト中、具合悪かったんか?」 とりあえずからかってやるかと思った三代吉だったが、予想外の点数に本気で心配した。 「いや、本気の本気…」 言ってて眞一郎は自分が情けなくなる。 「ま、大丈夫だべ。中間で挽回すればいいんだからよ」 三代吉は励ますように眞一郎の肩をバシバシと叩いた。 「そうするしかないよなぁ…」 そうして話が一段落ついたところで、眞一郎の席に比呂美がやってきた。 「眞一郎くん」 「何?」 「今日おばさんに呼ばれてるの。テスト前で部活も早く終わるから一緒に帰れないかなって思って」 遠慮がちに比呂美が言う。恋人同士なのだから『待ってて』と言われれば眞一郎は何時までも待ってあげられるつもりだが、そこは隣に三代吉がいるからそういう言い回しにしたのだろう。 「いいよ。適当に時間つぶしとく」 「ごめんね。ありがと」 微笑む比呂美を見て三代吉が、 「いいねー。恋人同士のゆったりとした昼下がり。羨ましいねぇ」 「野伏君には愛ちゃんがいるじゃない」 苦笑いで返す比呂美。 「だって俺らは一緒に登下校なんてできねーもん。一種の遠距離恋愛みたいなもんさ」 と、窓の外へ遠い目を向ける三代吉。 「でも、今日も“あいちゃん”行くんでしょ?」 「今日はダメなんだよー。家の手伝いでさー。田植えは終わってもまだやることあってさ」 「そうなんだ」 三代吉と談笑する比呂美を見て、眞一郎は少しだけ微笑ましく思った。 眞一郎と付き合うようになって、比呂美は以前にまして人当たりがよくなったように思える。特に異性に対して。 心の中にしっかりと眞一郎の居場所を確保できている分、心にゆとりができたのだろう。 元々人気の美少女だったのが最近は雰囲気が柔らかくなったと男子の人気もうなぎ登りで、彼氏である眞一郎に対する風当たりは日に日に厳しくなるのだが、それでもあの冬のどこか情緒不安感な比呂美に比べたら、今の彼女はとても魅力的だ。 眞一郎が昔憧れた笑顔の比呂美がここにいる。 嬉しくないはずがなかった。 「比呂美さーん。そろそろ行きますよー」 男子と仲良く話している比呂美を少しやっかむような調子で朋与もやってくる。 「あ、うん。じゃあ眞一郎くん後でね」 「わかった。部活頑張ってな」 「うん」 笑顔を見せる比呂美。 「仲上君ー。私にはー」 朋与の不満そうな声に、眞一郎は苦笑いでリクエストに応える。 「黒部さんも頑張って」 「愛情こもってないぞー」 「あるわけないないでしょ。ほら、行くよ」 比呂美は朋与の耳を軽く引っ張った。 「いたっ、いたた、冗談に決まってるじゃ……」 そしてそのまま引きずるように教室を出ていった。 「……湯浅さん、お前のことになるとすげーな」 「はは……」 残された男二人は苦笑いを浮かべるばかりだった。 ──── 昼食を取って三代吉と別れた後、眞一郎は時間潰しのために学内の散歩を始めた。 グラウンドは部活に打ちこむ生徒の姿で活気に溢れていて、日差しはいつ夏服に移行してもおかしくないくらい暖かかった。 比呂美と付き合い始めてからは、彼女の部活が終わるのを待つことも少なくない。 たいていは校内をうろつきながら絵本のアイディアを出したり、あの鶏小屋に行き“地べた”の様子を見に行ったりもした。 (そろそろ終わる頃かな) そして最後はこうやって渡り廊下のベンチに腰掛けて、取りとめもなくスケッチを取り始めるのだ。 (……今度からは図書室で勉強するかな……) ふとテストの点を思い出しそんなことを思う。 そして、辺りの風景画を7割程描き終えた時だった。スケッチに人影が差し込んだ。 「相変わらず上手ね」 聞き覚えのある声に振り向くと、すまし顔で佇む愛らしい少女がいた。 「乃絵……」 「隣、座ってもいい?」 「ん……ああ」 突然の事に少し動揺する眞一郎を全く気にせず、乃絵は軽やかな動きで隣に腰掛けた。 ただ、以前のように側に寄ることはなく、半身分距離が空く。 それが今の二人の関係の縮図でもあった。 「眞一郎とこうして一緒にいるの久しぶりね」 「そうだな」 進級後もクラスが別だったこともあって、あれから乃絵と面と向かって話しをすることはなかった。 眞一郎が選んだのは比呂美で、乃絵の気持ちには応えることが出来なった。 後悔はしていない。ただ、心のどこかで乃絵に対してほんの少し負い目を感じているのも確かだった。 「何してたんだ?」 眞一郎の方から話しを振った。 「友達とお話ししてたの。でもみんな帰らなくちゃいけなくなったから、私は“地べた”を見に行こうと思ったら眞一郎がいたの」 乃絵はぱたぱたと足を揺らす。 友達……乃絵が口にすると何か特別なもののように思えた。 “孤独”が肩書きだった少女はもうここにはいない。 「ありがと」 乃絵が微笑んで言った。 「何が?」 突然の言葉に、眞一郎は意味を理解できなかった。 「ずっとお礼が言いたかったの」 「だから、何で」 会話が上手く成り立たないことがなんだか懐かしくて、眞一郎は思わず笑ってしまった。 「まだ生まれたての小鳥だけど、少しずつ翼を広げることができてきたから」 「俺は何もしてないよ。乃絵が飛ぼうと努力した結果だよ」 ううんと、乃絵はゆっくり首を振って、 「それでも眞一郎が『飛べる』って信じてくれたから今の私があるの」 「そっか……」 「だから気にすることなんて何もないわ」 「乃絵……」 乃絵には傷つけるばかりで何もしてやれなかった。 そんな眞一郎のわだかまりを、少女はしっかりと見抜いていた。 ほんの少しだけ許されたような気がした。 「……お礼を言わなくちゃいけなかったのは俺の方だな」 眞一郎は彼女に聞こえないように呟いた。 「おやおや~仲上君、不倫はいけないなぁ」 声のした方を振り返ると、部活を終えてすでに帰り支度を整えた朋与がいた。 「こんにちは、黒部さん」 「こんにちは」 親しげに挨拶する二人を見て、眞一郎は少し驚いた。 「あれ? 二人知り合いだったけ?」 「ときどき話すよ。ね?」 「うん」 乃絵の笑みが嘘じゃないと教えてくれた。 (そっか……ホントに飛ぼうとしてるんだな) そのことがとても嬉しくてどこか親心のようなもの感じた。 「私帰るわ。怒られたくないもの」 誰に、とまでは言わなくても分かる。 遠まわしに冷やかして乃絵は立ち上がった。 「やっぱり眞一郎といると楽しいわ。またお話ししましょ」 「ああ」 口約束を交わすと、乃絵は笑顔で手を振ってその場を走り去った。 眞一郎も立ち上がって手を振り返す。 「あの子、変わったよね。前はあんまり好きじゃなかったんだけど」 朋与が乃絵の背中を見つめながら言う。 比呂美側の朋与から見ても好感を持たれるようになったのなら本当に変わったのだろう。 嬉しいような、それでいてどこか寂しいような、眞一郎はそんな感慨深さを抱く。 「それにしてもあれね。三角関係でもつれたって割には、変わらず親し気じゃない?」 「いや、俺だって久しぶりに話したんだよ」 「何? じゃあまた三角関係が復活なわけ?」 「んなわけないから」 朋与の冗談をじと目で返す。 「眞一郎くん」 そこへ比呂美がやってくる。 「聞いてよ比呂美~。仲上君、石動乃絵と逢引してたのよ」 ニヤニヤと朋与が報告する。 それを聞いて比呂美は一瞬身を硬くしたが、 「二人は友達なんだから会ってたって変じゃないでしょ」 眞一郎を責めることはなく、からかう朋与をたしなめる。 「ちぇ、堅固な愛だこと。羨ましいわ」 「黒部さんも彼氏作れば?」 眞一郎が苦笑いで問いかける。実際ルックス的には彼氏がいたっておかしくないとは思うのだが、 「(∩゚д゚)アーアー、勝者の余裕はキコエナーイ」 と背を向けたまま気だるそうに手を振りながら帰っていった。 (あの性格が原因なんだろうな……) ちょっとだけ哀れむ眞一郎だった。 ──── 「思ったより早く終わったんだな」 「うん。うちの部、前のテストの結果があんまり良くなかったんだって。『イメージ悪くしたくないからみんな勉強しなさい』ってキャプテンが」 二人は並んで下校する。最初の頃はお互い照れたりもしたのだけど、今はこうして自然体でいられるようになってきた。 「部活の成績が良ければその分は補えそうだけどな」 「でも、両立できるに越したことはないから」 「その点お前は心配ないよな。期末も良かっただろ? その頭の良さを少しわけてもらいたいよ」 と大げさにうな垂れてみせる。 「そんなに小テスト悪かったの?」 「かなり……なぁ、後で勉強見てもらってもいいか? できれば次のテスト範囲カバーしてもらえると助かるんだけど」 「私にわかる範囲でよければいいよ」 「助かるよ」 比呂美に見てもらえれば今回より酷くなることはないだろうが、なんだかんだでいつも頼ってばかりで男として少し情けなくも思ってしまう。 「まだ時間あるし、どこか寄って行かない?」 そんな浮かない顔をする眞一郎を見て、比呂美は息抜きを提案する。 「いいけど、どこ行く?」 「私“あいちゃん”行きたいな。野伏君が行けないみたいだから代わりに顔出してみたい」 と、幼馴染の店を提案する。 「いいよ(……比呂美が愛ちゃんとこ行きたいなんて言うの初めてかも)」 「奢ってくれる?」 ちょこんと身体を傾けて上目づかいに覗き込んでくる彼女のおねだりに、眞一郎は頬を少し赤らめる。 「そりゃ勉強見てもらうんだし、そのくらいは奢るよ」 「それに、私に内緒で石動さんと会ってたんだよね?」 意外な一言に眞一郎は慌てて弁明する。 「違うって、乃絵とはたまたま会ったんだよ。そういうんじゃないんだって」 動揺する眞一郎がおかしくて比呂美はくすっと笑った。 「冗談だよ。じゃあ、行こ」 言って比呂美が先に歩き出す。 ほっと胸を撫で下ろす眞一郎。 だが、彼女の表情にほんの一瞬影が差したことに気付くことはなかった。 ──── 「おーっす」 “あいちゃん”に着くと、入り口にまだ準備中の札が下がっていたが、そこは勝手知ったる他人の店。 眞一郎は気にすることなく中に入っていく。 「準備中の札見えなかったのー? まだ開店してませんけどー」 奥で在庫整理をしていた愛子は、声で来客者を認識して適当にあしらった。 「いつものことじゃん」 「親しき中にも礼儀ありって……」 カウンターに戻ってきた愛子は眞一郎の後ろに控える少女を見て顔を輝かせた。 「比呂美ちゃん……!」 「こんにちは」 比呂美は照れくさそうに軽く頭を下げた。 「うわ~比呂美ちゃんが店に来てくれるなんて久しぶりだねー。座って座って」 「うん」 促されるまま比呂美はカウンターに腰掛ける。 「愛ちゃん態度違いすぎだろ」 口を尖らせる眞一郎もその隣に座る。 「当たり前でしょ。いつも暇つぶしに来るアンタとは違うんだから。何飲む? 今川焼き食べていくよね?」 比呂美の来店がよほど嬉しかったらしく、愛子はあれこれと彼女に世話を焼く。 数分もすると焼きあがった今川焼きが差し出された。 「どうぞー」 「ありがと。愛ちゃん、すっかり看板娘って感じだね」 「そーかなぁ」 愛子は照れくさそうに頬を指で掻いた。 「足元にビールケースあるけどね」 「うるさい」 今川焼きを頬張りながら眞一郎がぼそっと呟くのを聞き逃さず、愛子は間髪入れずつっ込みを入れる。 なんというか、雰囲気だけ比べれば比呂美の方が年上に見えないこともない。 「それで今日はどうしたの? あたしに何か用事あった?」 比呂美がここへ来るのは本当に久しぶりだ。高校に入ってからは初めてかもしれない。 だから何かしら用がなければ足を運ばないだろうと思う愛子の考えは至極当然のことだった。 「部活早く終わったし時間あったから、眞一郎くん誘って愛ちゃんに会いに行こうかなって思って」 「ホント? 嬉しいなぁ~。もっと遊びに来てくれていいんだからね?」 「うん」 比呂美にとっても愛子は大切な幼馴染の一人だ。 家庭の事情や眞一郎との異母兄妹疑惑で、彼に関わる全てを遠ざけてきたが、それらが解消した今は素直に愛子に会いに来たいと思えるのだ。 「おいしい……」 昔、愛子の親が焼いてくれた今川焼きの味を思い出す。 また一つ明るい場所へ戻って来れたのだと実感して、比呂美は胸の奥に熱いものがこみ上げるのを感じた。 「あれ? それ」 ちょうど眞一郎と比呂美が同時に今川焼きを口に運んだ時だった。 愛子が眞一郎と比呂美の左手首を交互に指差す。 二人の手首に同じミサンガが結ばれていることに気付いたのだ。 「二人でミサンガしてるんだ」 「あ……うん」 比呂美が照れくさそうに手首を抑えた。 「何か一緒の物が欲しいなって思って……でもアクセサリーだと高いから」 「運動してる比呂美にはちょうどいいし、じゃあミサンガにしようかって」 「色はお互いの好きな色にしたの。私がピンクで、眞一郎くんが青で……」 二人が説明するのを愛子はにやにやとした表情で聞いて、 「あたしそこまで聞いてないんだけどね(・∀・)ニヤニヤ」 「…………!」 なんか馬鹿ップルっぽくて二人は一気に顔を赤くした。 「……お、俺ちょっとトイレ借りるわ」 と、眞一郎は逃げるように席を外した。 比呂美はまだ恥ずかしそうに視線を落としてままだったが、そんな彼女を見て愛子は、 「……よかった」 「え?」 「ちゃんと彼氏彼女やってるんだね。安心した」 そう言った愛子の優しげな顔は、弟妹を見守る姉そのものだった。 「愛ちゃん……」 「詳しいことわからないけど、いろいろあったみたいだったから。 眞一郎はずっと比呂美ちゃんのこと好きだったし、比呂美ちゃんも眞一郎のことずっと好きだったんだよね?」 「うん……」 少し気恥ずかしくて比呂美は視線を落とす。 「乃絵ちゃんも可愛くていい子だけど、やっぱり眞一郎と比呂美ちゃんはお似合いだよ」 自分の想いが報われなかった愛子としても、「比呂美になら……」という諦めの気持ちはあった。 実際に今の二人を見せられると、やっぱり敵わないなぁと心の中で清々しく思えた。 そんな彼女の秘めていた想いを、比呂美は幼い頃からなんとなく気付いていた。 眞一郎に向けられる、好意を持つ視線には敏感な方だ。 だからといって「ごめんね」とは言いたくない。 「ありがとう」 比呂美もまた、誰よりも眞一郎が好きなのだから。 「……ところでさ」 愛子は眞一郎が戻ってこない気配を確認してから身を乗り出して、比呂美の耳元で小声で言った。 「もう眞一郎と……した?」 愛子の言わんとすることを瞬時に理解して比呂美は再び顔を赤くする。 「な、何? 急に……」 「いやさ、自分が済ませると周りはどんなものなのかと気になっちゃってさ……」 そういう愛子の頬も朱に染まっていた。 「愛ちゃん野伏君と……したの?」 「い……一応ね」 なんか気まずくて二人は視線を逸らしながら会話を続ける。 「で、比呂美ちゃんは?」 「…………まだ」 「そうなんだ……眞一郎『したい』と言って来ないの?」 「……うん……特には」 そういうことに関して比呂美もいろいろ考えないこともなかった。 恋人同士なのだからいつかはと言う思いも当然ある。 正直、比呂美としてはいつでも構わないと思っていた。眞一郎に捧げる覚悟はできている。 ただ、当の本人は手を出してこなかった。キスは時々する。でもそこまだでだ。 眞一郎は性欲が薄いのか、それとも自分に魅力がないのか、いろいろ考えることもあるが、まだ16だしそんなに急ぐこともないのかなとそこまで深刻に考えることもなかった。 「野伏君は『したい』って言ってくるの?」 「うん……あたしは早いかなって思ったんだけどね」 「そうなんだ……」 やはり年頃の男子はそういうものだろう。愛子のような可愛い子が彼女ならなおさらかもしれない。 でも、眞一郎は何も言ってこない。遠慮しているのだろうか? (それとも……やっぱり……) 一つだけ気がかりなことが比呂美にはあったが、それを愛子に聞いても仕方がなかったので口にするのはやめた。 「何小声で話してんの?」 トイレから戻ってきた眞一郎に声をかけられるまで気付かず、二人はびくっと身をすくめた。 「な、なんでもないの」 「そうそう、女同士の大事な話しだからアンタには関係ないの」 二人が笑って誤魔化すのを眞一郎はわけがわからず?を頭の上に浮かべるのだった。 「それじゃ、また来てね」 「うん」 二人が帰るのを、愛子は店先まで出て見送ってくれた。 「そだ、眞一郎ちょっと」 「何?」 愛子は眞一郎を連れると、比呂美から少し離れて、 「あたしと乃絵ちゃん振って選んだ比呂美ちゃんなんだから、大切にしなさいよ」 「わかってるよ……大丈夫だって」 「ホントに?」 ずいっと顔を近づけて瞳を覗き込む愛子。 「ホントだって」 その剣幕にたじろぎながらも眞一郎はきちんと見つめ返す。 納得したのか愛子は身体を離して、 「大丈夫そうね。……ほら、行きな」 ぽんと背中を押して眞一郎を比呂美に返す。 今度こそ本当に別れを告げて、愛子は二人が見えなくなるまで見送った。 店に入ると立ち止まって一つ息を付く。 「……うん、大丈夫」 眞一郎に言い聞かせた言葉は、彼を卒業できた彼女自身の気持ちでもあった。 「こうやって学校帰りに遊んでいくのも楽しいね」 帰り道、比呂美は充実した表情を浮かべていた。 「まぁ、俺はいつものことだけど、お前は部活があるからな」 「また時間あったら付き合ってくれる?」 「行きたいところあったらどこでも付き合うよ」 「ありがと……」 穏やかな甘い空気が二人を包み込む。 辺りは静かで、意識すればするほど、心臓がドキドキを高鳴る。 「手……繋ぐ?」 「うん……」 こうして自然に誘えるようになっただけでも、眞一郎にとっては大きな成長だった。 さりげなく優しく重なった手のひらは、お互いの温もりに満ちていた。
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カチッ カチッ、カチッ マウスを操作して、帳簿を入力していく。最近になってソフトをアップデートしたため、どうも勝手が違う。 ああっ、また間違えた。 若い人ならすぐに慣れるのだろうけれど、私のような年齢になると、使いもしない機能足したせいで操作が変わっても、 使いづらくなるばかりだわ。 理恵子は何の建設性もない文句を心の中でパソコンに叩きつけていた。 「おばさん、いる?」 勝手口が開き、眞一郎と同年代の、小柄な女の子が顔を出した。 愛子だ。 「どうしたの?」 「蔵の人に訊いたら、ここから入っていいって言われて。後で家にお酒配達してもらえないですか。急なお客が来る事に なっちゃって」 「わかったわ。誰かに持って行かせます。急ぎではないのね?」 「うん、どうせお酒は夜だから。帳簿つけてるんですか?」 「そうなの。なかなか慣れなくて」 「眞一郎にやらせちゃえばいいのに。それか、比呂美ちゃんとか」 「眞ちゃんはこういうの苦手だから。比呂美ちゃんも部活があるし」 半分は方便である。眞一郎があまり向いていないのは事実だが、比呂美には蔵の仕事を頼むのに抵抗があった。 夜遅くまで、パソコンの前に座って帳簿をつけていた比呂美の姿を思い出す。当時は何も感じていなかったのに、今は それだけでも胸に痛みを感じる。比呂美にとっても明るい記憶の残る場所ではないだろう。 「そういえば眞一郎は?比呂美ちゃんのところ?」 「隣町まで行ってるわ。なんだか画材を切らしたとか言ってたけど」 理恵子も今は眞一郎が絵本作家を目指すことに異議は唱えない事にしている。納得したわけではないが、ひろしがそれ でいいという以上仕様がない。 「愛ちゃんはどうなの?三代吉君だったかしら?仲良くしてる?」 理恵子としては深く考えた言葉ではない。眞一郎がそんなことを言っていたのを思い出したから適当に振った話題である。 だが愛子は何故か一瞬表情を翳らせ、言葉を濁した。 「え、えっと、ははっ。参ったな・・・・」 照れたのだろうか?何か違和感がある。 「・・・・・・・・・」 作業を続けながら、愛子が何か言うのを待った。何も言わずに帰るのならそれでもいい。 「おばさん、誰かに酷い事しちゃって、その人は許してくれて、でも自分は自分を許せなくなった時って、ある?」 理恵子は手を止め、愛子の方をむいた。愛子は自分の言葉に驚いたようだった。 「あ、お、お仕事の邪魔ですよね!すいません、これで失礼します!お酒、よろしくお願いします!」 「ちょっと待って、愛ちゃん」 「は、はい!?」 「ちょっと一休みしようと思ってたの。お茶、付き合っていただける?」 お茶と、羊羹が愛子の前に出された。 「頂き物だけど、どうぞ」 「は、はい、ありがとうございます・・・・・」 理恵子は敢えて訊き直す事をしなかった。ただお茶をゆっくりと飲んでいた。 「・・・・・・私、とても酷い事しちゃったんです・・・・・」 ようやく愛子が口を開いた。 「でも、その人は怒らなくて、それどころか私が気に病まないようにしてくれて、それで私が謝ったらあっさり許してくれて、でも、 私は彼の優しさに甘えてるだけみたいで、それでいいのかなって、えと・・・・何言ってるんだろ、私・・・・」 「・・・・・あるわ」 「え?」 「おばさんにもあったわ、そういう事。もっとも、おばさんの場合はまだ許してもらってるかどうかも怪しいのだけど」 理恵子は自覚していない。比呂美に対しては私、愛子に対してはおばさんと、一人称が異なっている事を。比呂美に対しては 「女」になってしまうのだ。 「でもね、そういう時は、相手が許してくれるかどうかは問題じゃないんじゃないかと思うの」 「問題じゃない?」 「そう。相手を傷つけてしまったのでしょう?それなら、やることは一つだわ」 「一つ・・・・」 「護るのよ。その人を傷つける総てから、その人を護り続けるの。どんな時でも、何があっても。自分を許せるようになる日まで」 「おばさんは・・・・今もそうしてるの?」 「護れてるかどうかわからないけど、少なくとも、見てみぬ振りはしてないわ」 それは、今まで誰にも話すことなく理恵子自身が括った「覚悟」だった。比呂美の母親には自分はなれない。それでも、絶対的 な、盲目的な味方になる事で、比呂美の力になる。比呂美が他校の生徒のバイクで事故を起した日に、理恵子は誓ったのである。 「そう、ですね」 愛子は言った。迷いは完全には晴れていないかもしれないが、少なくとも指針の一つを見つけた、そんな顔をしていた。 「参考になればいいのだけど」 「とっても。やれることをやっていきます」 愛子はそういって席を立った 「それじゃ、私、これで帰ります。これ、どこに片付ければ・・・・?」 「そのままにしておいてくださいな。私も帳簿に戻らなくてはね」 「やっぱり比呂美ちゃんにも覚えてもらえばいいのに。どうせおばさんの仕事は比呂美ちゃんが引き継ぐんでしょ?」 くるっ、という勢いで理恵子が振り向いた。ポニーテール風にまとめた後ろ髪がパサリと揺れ、目を円くした理恵子を見て、 愛子は可愛いと思った。 「跡・・・継ぎ?」 「え?ええ・・・そうなります・・・・よね?」 「そう・・・そうよね。比呂美ちゃんも覚えることに意味はあるのよね・・・・どうして気が付かなかったのかしら・・・・・」 「お、おばさん?」 「ありがとう、愛子ちゃん。おばさんもまだやれることがあったわ」 自分に比呂美のためにやれることがある。仲上家の女子ではなく、仲上家の嫁なら教えられることもある。理恵子はらしく もなく、鼻歌さえ歌いながらパソコンに向かい合った。 了 時期はママンの黙認より前、春休みです
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true tears 真実の涙**滴目 1 : 舞台は北陸地方・富山県。絵本作家志望の高校生・仲上眞一郎は、 過去のトラウマによって涙を流せなくなった少女・石動乃絵と出会う…。 =========重要項目======= ・煽り、荒らしは徹底放置。→削除依頼:http //qb5.2ch.net/saku/ ・2chブラウザ(無料)の導入を推奨。→ttp //www.geocities.jp/jview2000/ ・sage進行推奨。E-mail欄(メール欄/メ欄)に半角小文字で「sage」と記入。 ・ニコニコ動画、YouTube(ようつべ)、ファイル共有関連の話題・URL貼りは厳禁。 ・次スレは 980を取る→スレ立て宣言→スレ立てる。無理なら代役を指名すること。 ======================== バンダイチャンネル:ttp //www.b-ch.com/cgi-bin/contents/ttl/det.cgi?ttl_c=1179 第1話を無料配信中! BIGLOBEストリーム:ttp //broadband.biglobe.ne.jp/program/index_bch.html ○関連頁 TVアニメ公式:ttp //www.truetears.jp/ true tears (アニメ) まとめwiki:ttp //www39.atwiki.jp/true_tears/ Wikipedia:ttp //ja.wikipedia.org/wiki/True_tears_%28%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A1%29 ※本作品は、登場人物・設定・展開・全てオリジナルですので、ゲームとは異なります。 PS2ゲーム公式:ttp //lacryma.info/tt_ps2/ Windowsゲーム(原作)公式:ttp //www.lacryma.info/truetears/ 前スレ:true tears 185滴目http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1221405750/ 2: ○キャスト 仲上 眞一郎 : 石井 真 石動 乃絵 : 高垣 彩陽 湯浅 比呂美 : 名塚 佳織 安藤 愛子 : 井口 裕香 野伏 三代吉 : 吉野 裕行 石動 純 : 増田 裕生 黒部 朋与 : 渡辺 智美 高岡 ルミ : ミルノ純 眞ちゃん母 : 高橋 理恵子 眞ちゃん父 : 藤原 啓治 酒蔵の少年:土倉有貴 乃絵のおばあちゃん : 瀬能 礼子 あさみ:下田 麻美 美紀子:渡部 恵子 真由 : 洞内 愛 ○製作陣 原作 : La cryma シリーズ構成 : 岡田 麿里 監督 : 西村 純二 色彩設計 : 井上 佳津枝 人物原案 : 上田 夢人 キャラクターデザイン・総作画監督 : 関口 可奈味 音響監督 : 若林 和弘 美術監督 : 竹田 悠介・篠原 理子 音楽 : 菊地 創 撮影監督 : 福士 享 (T2 studio) 音響制作 : ランティス アニメーション制作 : P.A.WORKS 製作 : バンダイビジュアル ○主題歌 OP曲「リフレクティア」 作詞 : riya、作曲・編曲 : 菊地 創、歌 : eufonius ED曲「セカイノナミダ」 作詞:畑 亜貴、作曲・編曲:末廣 健一郎、歌 : 結城 アイラ ○ネットラジオ「こちらチューリップ放送局」(放送終了) 司会者 : 高垣 彩陽、名塚 佳織、井口 裕香 ttp //dbeat.bandaivisual.co.jp/netradio/true.php 3 : ○DVD (バンダイビジュアルより全7巻。好評発売中。.ANIME限定版有) (毎回封入特典)8Pブックレット 第1巻…税込価格¥3,990/第1話「私…涙、あげちゃったから」収録。50分。 (映像特典)1.新作映像「true tears 小さいって事は楽しいね(仮)」 2.特別番組「こちらチューリップ放送局 出張版」 3.ノンテロップオープニング 第2巻…税込価格¥6,090/第2話「私…何がしたいの…」、第3話「どうなった? こないだの話」収録。50分。 (映像特典)1.新作映像「true tears ライト(仮)」 2.ノンテロップエンディング 第3巻…税込価格¥6,090/第4話「はい、ぱちぱちってして」、第5話「おせっかいな男の子ってバカみたい」収録。50分。 (映像特典)新作映像「true tears ss(仮)」 第4巻…税込価格¥6,090/第6話「それ…なんの冗談?」、第7話「ちゃんと言って、ここに書いて」収録。50分。 (映像特典)新作映像「true tearsにゃ(仮)」 第5巻…税込価格¥6,090/第8話「雪が降っていない街」、第9話「なかなか飛べないね・・・」収録。50分。 (映像特典)新作映像「true tearsげきじょう(仮)」 第6巻…税込価格¥6,090/第10話「全部ちゃんとするから」、第11話「あなたが好きなのは私じゃない」収録。50分。 (映像特典)新作映像「true tears A s(仮)」 第7巻…税込価格¥6,090/第12話「何も見てない私の瞳から・・・」、第13話「君の涙を」収録。50分。 (映像特典)新作映像「true tears ふぉ~えう゛ぁ~(仮)」 【.ANIMEスペシャルパッケージ版】第1巻 ¥5,040(税込) 第2巻~第7巻 ¥7,140(税込) ※一部品切れ .ANIME特集ページ:ttp //www.dot-anime.com/feature/025.html その他、全巻購入特典有りの店 とらのあな : ttp //www.toranoana.jp/mailorder/mdv/pagekit/0000/01/32/0000013227/index.html キャラアニ : ttp //www.chara-ani.com/details.asp?prdid=CHA080030 ゲーマーズ : ttp //www.broccoli.co.jp/gamers/fair_0803.html#2504 4 : ○CD OP「リフレクティア」(cw elekto) 歌 : eufonius 発売中/LACM-4459/税込価格\1,200/Lantis ttp //lantis.jp/new-release/data.php?id=060c8d41a1d4f7c09d58ce58f18f6153 ED「セカイノナミダ」(cw そこにひとつだけ) 歌 : 結城 アイラ 発売中/LACM-4455/税込価格\1,200/Lantis ttp //www.lantis.jp/new-release/data.php?id=75e44c27b03251c39cf82a90fdfb9350 「オリジナルサウンドトラック」 音楽 : 菊地 創 発売中/LACA-5752/税込価格\3,000/Lantis ttp //www.lantis.jp/new-release/data.php?id=55a2fa7f639ea23a32713e0dd21e4b7a OP、EDのTVサイズ、「アブラムシの唄~デモトラック Ver.~feat.riya(eufonius)」などを収録 「イメージソングアルバム Tears...for truth」 発売中/LACA-5763/税込価格\3,000/Lantis ttp //www.lantis.jp/new-release/data.php?id=2c73593e4144eb994e54f4b24c5ebf44 参加アーティスト:eufonius/結城アイラ/伊藤真澄/yozuca*/アツミサオリ/kukui/Rita/石動乃絵(高垣彩陽) 「TVアニメ true tears ドラマCD」 発売中/LACA-5782/税込価格¥3,000/Lantis ttp //lantis.jp/new-release/data.php?id=411745b68708388e2813c9923f93d021 ○書籍 特典DVD付ムック「true tears memories」 A4判・アジロとじ・112ページ/定価2600円(税込) ttp //www.e-animedia.net/contents/book/mook/truetears.htm 5 : ○関連スレ ・キャラスレ [アニキャラ個別板] 【true tears】仲上 眞一郎君http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1200250556/ [アニキャラ個別板] 【true tears】湯浅 比呂美 着付け42回目http //changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1215759312/ [アニキャラ個別板]:【true tears】石動乃絵は純粋かわいい 12http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1210696330/ [アニキャラ個別板] 【true tears】安藤愛子【あいちゃん焼 3個目】http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1207538194/ [アニキャラ個別板] 【true tears】野伏三代吉【当て馬】http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1202562674/ [アニキャラ個別板] 【true tears】石動 純は重度のシスコンhttp //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1202261139/ [アニキャラ個別板] 【true tears】黒部 朋与【貴重なデコキャラ】http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1202379492/ [アニキャラ個別板] 【true tears】 ママン 鰤大根2皿目http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1213415328/ [アニキャラ個別板] 【true tears】酒蔵の少年http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1201526419/ [アニキャラ個別板] 【true tears】高岡ルミは先輩かわいい【バスケ部】http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1204796627/ [アニキャラ個別板] 【true tears】モブキャラ達を愛でるスレhttp //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1201599171/ [アニキャラ個別板] 【true tears】地べた【から揚げ】http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1203304477/ [アニキャラ総合] “true tears キャラ総合スレ”http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1204275982/
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前truetearsVSプレデター2 意外にも、怯える比呂美にかけられたのは暖かい厚手のコートだった。こんなにいい生地はみたことがない。 「目標と一次接触を持ったと思われる民間人を発見。処理を問いたい」 「詳しい情報を聞きたい。慎重に保護した後、厳重に監視せよ。しかし抵抗したら射殺も許可する」 全身をプレデターの通常視野に移らないようコーティングされたスーツで包んだ兵士がマスクの下で無線通話する。 大金のかかった任務中とはいえ、成功が確定した今、全裸の美少女をうまく料理する方法はないものか思案する。 もっともそんな会話も思惑も比呂美には伝わらないし、考えも及ばない。 「さぁ、立って。もう安全だから」 「・・・あ、ありがと・・・」 グチャッ。 比呂美が安堵した顔を上げると、すぐ眼前にその男の顔があった。 より正確には、マンホールから上半身だけ出したように胴体があったのだ。下半身とは別々に。 空気が凍ったのち、一瞬で氷解する。 「ぎゃあああああああっ!!!」 完全に焼け死んだと思われたプレデターが懐から円盤上のレイザー・ディスクを飛ばし、身を縛っていた網もろとも周囲の兵隊を、 バターのようにスライスした。屈んでいた比呂美はまさに幸運の一言。 「撃て撃てぇ!」 地面にトランポリンでも仕込んだようにプレデターが跳ね起きると、一番近くにいた兵士にダンプカーのように体当たりをかけ折り曲げる。 あっけにとられた左右の兵士に両腕から生えたリスト・ブレイドをぶち込むと、まだ息のある彼らを前後に掲げる。 「構わん!攻撃しろぉ!」 100キロはある兵士の楯が味方の放火で雑巾のようになる間にはプレデターが覚醒していた。 ブレイドを収納すると肉片をボールのようにブン投げて、運悪くブチ当たった兵士の肋骨をグチャグチャにする。 「ヴオオオオオンンンッッッ!!!」 プラズマキャノンを照準もあわせず前後左右に降り注いだ。武装チームが結集していたのが不幸、 そこいら中で灼熱の花火があがり、鉄は溶け、人が弾ける。車両は次々に爆発してアスファルトは剥がれる。 ガガガガガガガガガガ! プレデターに戦車も貫く鉄鋼弾が雨のように降り注ぐ。当然その傍にいる味方にも。 黄緑の体液が全身を染めるが、大木のような巨体からは想像もつかない俊敏さで兵士を積み木のように薙ぎ倒し、 縮めていたスピアを解放すると団子のように人体を貫いては、あたりに撒き散らし死体の山を築いていく。 「グゥオゥオアアアアッ・・・!」 一瞬で混戦と化し、ミキサーの中のように肉と銃弾、液体と炎、悲鳴と金属音がぶつかり合って弾き飛ぶ。 その中心にいる刃は宇宙の狩人だ。しかし重症を負った肉体の疲労は蓄積され、地上と空からの包囲網を突破できずにいた。 一方、比呂美は戦場が奏でる轟音のハンマーで鼓膜が割れそうになりながらも、火の海、血の海、死体の山の戦場を トカゲのように這いずり回っていた。全身は擦り傷と火傷でボロボロだが、手足が?がれても今は気付かなかっただろう。 燃え、砕け、ドロドロに溶けた屍に怖がる暇もない。とにかく安全な場所を探していると、レイプ集団の乗ってきたバンが目に留まった。 (あれだ!) 死体と瓦礫の丘を超えるのに四苦八苦していると、最後に闘った男が使っていた金属バットが手の届くところにあったので、 それを使って邪魔な肉塊や鉄くずを壊して進んでいく。 (車を運転できる?大砲で吹き飛ばされるかも?そもそも壊れてない?) 不安に限りはないが、といって選択肢があるわけもなく、 たかだか10数メートルを万里の長城でも渡った気持ちで(行ったことはないが)ようやくバンまで辿りついた。 頭上を銃弾が行き来しているのに、立ち上がるのはギロチンの振り子の間から首を出す心境だったが、 思い切ってジャンプするように運転席に飛び込んだ。ドアを開けたまま車から降りたレイプ犯に比呂美は心中で礼をいった。 ギアを直し、キーを回してエンジンを始動させる。ホラー映画だと直ぐにはかからないものだが、幸い心配はなかった。 運転席からこっそりと覗くように周囲を伺い、アクセルに足をかける。 (おねがい・・・うまくいって!) ギュッウゥゥ!!! 当然比呂美は世界中から押し潰されたような圧力を感じた!脳に血液が回らず、肺に酸素が届かない。 目を一杯に見開いてあちこち泳がせると、バックミラーが事態を教えてくれた。 助手席に置いた筈の金属バットが自分の首に添えられ、それを座席の後ろから伸びた太い腕が両端から後ろにひぱって、 全力で比呂美を絞殺しようとしていたのだ。 「ひひひひひひひひいひひい」 レイプ集団の中で唯一比呂美と直接肌を合わせ、睾丸を潰されて失神していた男だった。 病院で治療を受けるべき損傷を負った筈だが、周囲の喧騒に半分起こされた形で、運転席にいた比呂美を見つけ、 狂乱したままに襲い掛かってきた。まともな思考だったら、一旦水に流して共に逃走を図っただろうがそんな希望はなかった。 「がっ・・・はっ・・・こっかっ、・・・っっ!」 比呂美の手が虚空を引っかき、下半身が浮きあってフロントガラスをがむしゃらに蹴り上げる。 座席を挟んだ後方から締め上げられては、百年経っても手は届かない。 ガチャンッ 眞一郎の母が受話器を置く。比呂美を使い先に出した顧客から、彼女の対応を褒める電話を受けたのだ。 途中で急に切れてしまったが、何か急ぎの用事でも入ったのだろう。かけ直す気もない。 しかし連絡どおりなら比呂美はもうとっくに戻っていい時間である。 (馬鹿な子・・・。車で送ってもらえばいいのに) そしたらそうで何かしら野次るのだが、そんな省みる真似はしない。 まさか眞一郎と逢引でもと勘繰ったが、息子は部屋でウンウンと唸って何か励んでいるらしい。思春期はいろいろだ。 「全く・・・世話のかかる・・・」 自分では気付かぬほど焦りながら上着を羽織ると、こっそりと戸口を開け、車を出す。 夫は酒蔵で熱心に作業中で気付く気配もない。言っておくべきだと思ったが、 (どうせ私を困らせようとしてるのよ) 刻限を破るような子ではないと分かっているが、不審が先立って正常な判断を妨げていた。 「あ、ちょっとあなた。少し付き合ってくれない?」 仕事の上がった酒蔵の少年の坊主頭が目についたので声をかける。男手ならこの程度で十分だろう。 「え、あの、ダメですよご主人の前でそんな」 「バカね、いいから乗りなさい」 「不味いな・・・。あと3分で片付けろ。でなきゃ撤退だ、人生からもな」 プレデターの射程範囲外から状況を観測しているユタニ実働部隊の指揮官は毒づいた。 既に物質的にも人的にも被害は数百億を下らない損害を出している。 無論目標さえ捕らえてしまえば、その損失は帳消しにして余りある、生涯使い切れない報酬が約束されるが、 さもなきゃクビでは到底済まない。この世の地獄で朽ちて果てようというものだ。 行くも地獄、戻るも地獄。潜った先にある極楽には未だ届かない。 「化け物が・・・っ何故死なん?」 付近一帯にジャミングと停電、交通規制、周到な情報操作をかけて人手を払っているが時期限界になる。 だが宇宙ハンターをここまで追い詰めたのは初めてだ。この機を逃せば余命までにまたチャンスが来るとは思えない。 一方で、追い詰められた獣が大規模な原子爆発を起こすというのは重要な注意事項だった。 まぁこのまま逃げられるくらいならいっそ全て灰になってもらうほうが、事後処理もせずにいいというものだ。 もちろん自分たちは安全圏まで離脱した後だが。 「近隣の住民は災難だな」 あとコンマ数秒で比呂美の脳が走馬灯に入ろうというとき,それでも脱出方法を探ることを諦めなかった。 兵隊から貰った高級コートのポケットを無我夢中で漁り、広げ、かき回して‘それ‘を掴む。 グチュッ 「ずぅうっ!」 プレデターから贈られたライフルの弾丸を見つけると、 バットを握り締めた男の手甲に先端を添えて、その上から手を重ねて握り締め突き刺したのだ。 が、相手もアドレナリンが分泌されてるせいで、苦痛をものともせずに締め上げる。 「ふっ!」 しかし、それで十分。意思とは関係なく、力が弱まった隙に体を前に倒し、僅かに椅子に沈み込む。 強靭な圧迫から逃れるには至らないが、指先がやっと座席の傾斜レバーに届き前後構わず引っ張った。 ガクンッ 急に椅子が倒れたので相手も力のまま後方にのけぞって尻餅をつく。が、それでも男は比呂美の顎にかけたバットを外さない。 その勢いで比呂美は舌を噛みそうになったが、なんとか奥歯をかみ締めて踏みとどまる。 そして相手が上から覆いかぶさって体重をかけようとするより速く、指先を刀のようにピンと伸ばして、 男の手首の付け根の骨を斬るようにして、叩いた。 「っぐ!?」 衝撃で腕から力が抜けバットから指が離れる。その期を逃さず、比呂美は首の下から肘を入れてバットを掴むと一気に奪った。 そして寝転がった状態のままバットを縦に握りなおすと、顔面に拳が落とされるより速く、傘をさすようにバットを真上、 重力からすると横に向かって突き伸ばし、男の鼻と前歯を砕いたまま吹き飛ばす。 「ぷっぶぅっっ!!」 寝転んだ状態の戦闘なら既に経験済みだ。鼻血と唾液が降り注ぐのをかわしひっくり返って膝立ちになると、 男が反撃に出した左フックを薙刀のようにバットで防いで、その柄で顎を抉る。 「ごぁっ!」 続く反撃も矢継ぎ早に防いではその度に金属バットをバトンのように回して、男の急所を次々と痛めつけていった。 狭い車内における戦闘も経験済みであり、比呂美は高度な身体操作で体力差を圧倒していた。 「ごっ、ひゃあっ、げぇ・・・、も、もうゆる、許してぇ、ひいい」 いくら殴りかかろうと比呂美に指一本触れられず、全身を釘で刺されたような激痛で覆われ、 醜い痣で膨れるに至って男は降参する。親に叱られた少年のように丸まって命乞いするがもちろん比呂美は容赦しない。 「げっっっ!!!」 もはや比呂美は因縁などどーだって良くなっていたが、生かしといて+になるとも思えないので、 丸まった背中から突き出た背骨に向かってバットを振り下ろすと、胸椎が肉から見えるほど殴りつけ、 失禁した男を不法投棄でもするように車から蹴落とした。殺す気も起きない。 「ふぅ・・・」 チュンッ 前を向いて一息ついたとき、ビニールが破れるような音がした。 お腹の辺りが急速に温かくなってきたので、咄嗟に手を添えてそこに目を向けると黒いのか赤いのか分からない水が滴っている。 ふと伝説的刑事ドラマの伝説的俳優の伝説的殉職シーンがよぎる。 よもやこの死地に至ってさえ、自分はこの事態を想定していなかった。いや、受け入れていなかったのだ。 「う・・・うぅ、う~~っ」 現実に、耐え難い事実に対して比呂美は張り裂けるような怒りと悲しみを抑えきれず唸った。 唇を噛み切らんばかりに閉め、ただ唸るしかなかった。 どこから迷い込んだのか知れぬ一発の弾丸が脇腹を通り抜け、比呂美の血液をトクトクと外に零していた。 「あぁ、・・・お、奥さん、オ、オレもぉ、・・・もぉ駄目です!」 腰まで捲り上げられたスカートから伸びる白い太股が蛇のように腰を絡めてリズムよく上下に揺れる。 「しっかりなさい!あんっ、そんなことで・・・うちの仕事が、んっ、・・・勤まるとぉ・・・思ってるの!」 彼女の平手が勢いよく少年の頬を叩く。そして紅く腫れ上がった頬に舌をべったり這わせ唾液を塗りたくる。 「だ、だってぇ、・・・もう3回も・・・、あぅっ、枯れちゃいますよぉ」 上着から飛び出した白桃のような乳房の片方をを少年の顔で押し潰すと、その薄黒い先端を舐めるように誘導する。 「そうよ・・・もっと強く吸って、・・・はぁあ・・・千切れるように」 彼女の胎内が若い肉棹にきつく吸い付き、掃除機のようにグイグイと引き込むと、 たまらず少年の手が女性の背中を引っ掻きまわし、暴れるように腰を引いて、喰いつかれるのから逃れようともがく。 「もっと・・・もっと耐えなさいっ!・・・あぁんっ!」 結合部からは肉が擦れ合うが音がパンパンと響き、愛液と精液が交じった水溜りが溢れてグッチョリと太股を汚す。 比呂美を探しに夜の闇に出た眞一郎の母と酒蔵の少年だったが、途中で急な交通規制に遭い、 しばらく揉めたものの、ガードマンが軍人のように筋骨逞しい大男だったこともあってやむなく引き返したのだ。 伺う限りでは比呂美は通らなかったようだし、この人の多さなら何か事件があったということもないだろう。 天候の影響か携帯もカーナビも通じず、付近が都合よく停電だったこともあって、 暗い路肩に停車するとたちまち狭い車内での淫らな交合、はやくいえばカーセックスへなだれ込んだ。 今夜が初めてではない。というより少年は予期していたし、女も暗に期待していた。 「全く・・・んんぅっ、つくづく・・・あっ・・・使えない子ねぇ!眞ちゃんなら・・・きっと・・・あんっ!」 劣勢だった少年が突如、女性の柔らかい尻に指を食い込ませ、ムニムニとこね回しながら、 ロデオのように腰を振り上げ、子宮を突き上げる。技と力の合わさったダイナミックなテクニックだ。 (オレが!オレがあんなフラフラしたフリーター予備軍の七光りエロゲー小僧に負けるかよ!) 決して口には出せぬ叫びを熱き男根に込めて、猥らな口に叩きつける。 「なに?眞ちゃんと・・・あっ、比べられて・・・っ、悔しいの?ほんとに子どんんっっ!」 それ以上は許さぬと唇を重ねて繋ぎとめる。捩る首を押さえつけ、喉奥まで舌を入れると、 唾液をたっぷり流し込んで、吐き出そうと伸びた舌を軽く噛んで飲み込み、ディープキスを強制する。 (覚悟もなく!道理もなく!己の欲望のままに親の金を使い、女の優しさに溺れる! それが仲上眞一郎の限界!だからこそ、奥さんはオレのものだあああぁぁぁ!!!) 最初に眞一郎の母親から関係を強要されたのは彼が中学に上がる少し前だ。 はじめは性への興味と熟れた美貌の魅力から、やがて事の重大さが分かっても、 奉公先という上下関係に逆らえぬままに、また過ちを重ねた。 しかし、そうして毎日影に隠れ肌を重ねてくうち、彼女の瞳が自分を通して何かを見つめていることに気付く。 ひとつの事実に気付けば、あとは糸を手繰るようにして簡単に真実が浮き上がってきた。 いたいけな少年への肉欲など及ばぬ罪、禁じられた恋心がそこにはあった。 彼女が息子を見つめるときの哀しく、しかし艶かしく濡れた瞳をみたとき、 その情欲が決して適わぬこと、それを年近い自分に重ねていることに気付いたのだ。 そうして初めて彼女を上司でも、母でも、女でもなく、一個の恋に身を焦がす可憐な少女として遠くから見たとき、 感情的で過保護なだけの小うるさいセックスだけの付き合いだった女性の別の側面が見えてきた。 不器用になってしまう優しさ、意固地なばかりのプライド、裏目に出てしまう気遣いの数々がどれも溶けるように可愛いかった。 髪を上げるときの薬指、振り返ったときの首筋、困ったときの眉根に胸が歌うように高鳴った。 ほぼ同時に自分とは別モノとして意識もしなかった坊ちゃん、眞一郎に腹が煮えてきた。 愚鈍にして勘違い、優柔不断で視野狭窄、周囲の愛情に気付かずひたすら恩人を翻弄し、不幸に染める呆れた軟弱。 彼が幾人かの少女からの好意に懊悩していることはなんとなしに知ってはいたが、 少年から言わせれば全て眞一郎の不甲斐がなせる惨状、無能極まる小人の、それすら認められぬ大罪だ。 母の想いに気付けなどという無茶はいわんが、どうせ結果は決まっているのに、矮小な精神をひたすら守らんがために、 自他共に言い訳を重ね、いたいけな少女たちの魂を混迷させ、浪費するなど男子の風上にもおけぬ。 「あんっ・・・!今日は・・・くっ・・・激しいわっ!ねぇ、んっ、んんっっ、んああああああぁぁぁぁ!!!」 少年は女性の胎内に秘めたる滾る愛情と憎しみを解き放った。 「救護班ーっ!救護班ーっ!」 「いでぇえええええ!だずげでぐれええ!」 「ここだぁぁぁ!だれかぁぁぁぁぁ!!!」 硝煙と銃弾の立ち込める闇の中で絶え間なく悲鳴が続き、禍々しい合唱を奏でていた。 皮膚は爛れ、肉は裂け、骨が露出してなお、死ぬこともできず苦痛に苛まれる兵士たち。 かれらの助けを請う呻きを無視して、新たな兵力が突入してくる。 「どこだぁあああ!!このクソッタぐあっ!?」 サクッ 空間を切り裂いたように、なにもない場所からスピアが現れると、怒声を撒き散らす兵士の両眼を削った。 「うわぁああああ!ちくしょおおおお!!!」 光を奪ったプレデターは錯乱した男を味方に向け突進させると、再び瓦礫の隙間に沈む。 シュバァッ 遠くから狙撃の体勢を図っていたスナイパーの胸をプラズマキャノンで風通しよくする。 シュカァッ 空けた場所で待ち伏せていた集団の真ん中にレイザーディスクを送り、背を低くしてやる。 グチャッ 地面に転がる負傷兵を泥のように踏み潰す。 「ぎゃあぁぁああああ!!!」 幅の広い道路にユタニの装甲車両が幾重にもバリケードを築き、整然とした包囲網を敷き詰めてもなお、 プレデターは的確に狩りを進めていた。 高所や遠距離からの攻撃には灼熱のビーム、中距離には鋭利な円盤、傍にくるものは槍で叩き、両椀の剣で刻んでやる。 恐れをなして逃げた者の先には透明なワイヤーと破片を切り出したギロチンの罠が待っている。 激しく炎を絡め、鉄を振り、冷静に血を抜き、肉を分けていく作業はさながら名シェフの調理場のようだ。 大切なのはそこそこに殺すことだ。そこそこに。 半死の兵隊の終わらない悲鳴と傷跡は、これから来るものたちの心に恐怖を撒き散らす。 心理効果だけでなく、泣き声は忍び寄る足音を隠し、腐臭は強い体臭を打ち消す。 地に転がる負傷者そのものも巨体を誇るプレデターにとってはぬかるみ程度だが、 人間には足を滑らせ、車両を躓かせ、行く手を遮る沼となる。 プレデターは逃げ回るように見せて、破壊された車両と人間を捏ね混ぜて壁を建て、深い迷路を作っていた。 迷い込んだ者の光と音を遮り、動きを封じ、痛みを引き伸ばす堅牢で邪悪な要塞だ。 ユタニの特殊兵士たちも紛れないエキスパート、勝ち抜いてきた一流だったが、人間相手の殺し屋である彼らと、 生まれながらの捕食獣、狩人、戦士であるプレデターとでは生物としての格が違う。 脅威の運動能力と人間心理まで計算した巧みな攻防に、兵士たちは翻弄されるしかなかった。 だがそれでも、プレデターの不利は変わらない。 戦闘が続けば体力は消耗し、武器も疲弊し、長引くほどにより蓄積される。 続々と新しい兵力が投入されるなかでは、傷を癒す暇もない。 次第に足腰は衰え、砲の出力は弱まり、刃は零れていく。 「グウオオオオオオオオオオオオッッ!!」 それでも生ある限りは生を奪わんと大気の震えるような咆哮で己を鼓舞し、敵を戦慄させる。 未だ死んではいないのだ。自分も、そして彼女も。 ドンドンドンドンッ! 「比呂美ー!比呂美ー!」 石動と書かれた戸を何度も叩き、声も枯れんばかりに叫ぶ。 母が車を出した音に気付いたことがきっかけで、家のどこにも彼女がいないこと、 どれほど待てども彼女が戻らないことに焦った眞一郎は、自転車ひとつで飛び出したのだ。 「・・・今何時だと思ってる」 髪もパジャマも顔もクチャクチャにして、不快感を隠そうともしない石動純が戸を開ける。 誰が来たかは分かっている。こんな近所迷惑甚だしい無礼者は妹を除けば一人しかいない。 「あの女はいない」 「比呂美が来てるんだろ!?どこにいるんだ!」 仲上眞一郎はそんな態度も気付かず、食いつかんばかりに詰め寄って、家のなかに入ってくる。 自転車を玄関に横倒しにし、寝巻きの上からジャケットだけ羽織って、息も絶え絶えで駆けてきたのが伺える。 「出て行け」 額を歪ませて吐き捨てると、感情そのままに眞一郎を押し出して戸を閉める。 「ま、待ってくれ!随分前に出たきり帰ってこないんだ。何か、何か知らないのか?なぁ!」 構わず戸に張り付きながら眞一郎は問う。二度と見失うわけにはいかないのだ。 「・・・こっちは本当に忙しいんだがな、おまえらのおかげで」 これ以上騒がれるならと、ウンザリした表情で純は眞一郎を家に入れる。 ただでさえ肩身の狭い家庭なのだ。夜の夜中に女がらみで大騒ぎなど、近所の恰好の噂だ。 万が一にも学校や世間の心証を損ねないためにも、品行方正な生活が望まれるというのに、 どうしてこう恥知らずな輩ばかり絡んでくるのか。 「乃絵が寝てるから静かにな。それとも・・・本当は夜這いに来たか?俺はその辺を一回りしてくっ!」 玄関口で純が零した悪意の冗談に眞一郎が掴みかかる。 「こっちは本気なんだ!母さんも探しにいったきり戻らないし・・・ぐぁっ?」 純が襟首を掴んでいた眞一郎の手首を捻り上げると、不自然な方向に間接を曲げ押さえつける。 「なんでここに来てるんて考えたんだ?こっちはあのトラブルメーカーのせいで・・・関わりたくもない」 痛みにたまらず眞一郎は膝をつきながらも訴える。 「け、携帯も通じないし・・・、あちこち急に道路封鎖してて、きっと何か・・・トラブルにっ!」 純は憮然としたまま、体を後ろに折り曲げて耐える眞一郎を突き飛ばして解放する。 「どこかで股でも開いてるんだろう。あれは好きモノだからなぁ兄さん?」 胸をつららで刺されたように眞一郎の顔が青ざめる。 「まだ寝てないのか?じゃあ初めてっていうのは・・・本当だったんだな、くくっ」 「おまえぇ!」 怒りで心臓を焼かれた眞一郎が飛び掛る。が、合わせて跳んできた純のつま先が腹にカウンターで突き刺さった。 「ゲェフッ!ぐぅああ!」 夕食の中身を廊下に戻しながら眞一郎がバタバタとのた打ち回る。その頭を踏みつけながら純が嗤う。 「きったないなぁ・・・ほら、ちゃんと綺麗にしてくれよ?坊・っ・ち・ゃ・ん☆」 眞一郎の頬を床にゴシゴシと擦り付けて、無理やりに吐しゃ物を拭わせていく。 「あっちから誘ったのに怒るのは筋違いだな。そういえばスポーツやってる子が締まりがいいって知ってたか?」 足を引き剥がそうと伸ばされた指を踵で踏みつけ、頭を転がすと喉をつま先の指で押さえつけて息をさせない。 「真面目な子ほどなんとやらってな。動物園の猿のようにキーキー啼いて乱れて・・・」 もがく眞一郎のこめかみをサッカーボールのように蹴り上て吹き飛ばし、狭い玄関先にすっ転がす。 「なかでもあれは格別だったけどな、並べて比べたから本当だよ」 固い靴箱の角に眞一郎の額がぶつかって割れ、ドクドクと流れた血が歌舞伎のように顔を染める。 「あーらら・・・やっちゃたか」 蹲る眞一郎を侮蔑すると、純は洗面台から水で濡らしたタオルを持ってきてその顔に落とす。 「ここにいないのは本当だ。手がかりもない。手伝う気もない。分かったら帰ってくれ」 竜巻に上げられたように眞一郎は純に投げ飛ばされると、石動邸前の道路を飛び越えて電柱に激突し、 そのまま収集日を守らないゴミ袋の山に落下した。 「ぐぇっ・・・」 生ゴミのクッションで助かったもの、背中には赤紫色の痣が何ヶ月も残るだろう。 しばらくは独特の悪臭と感触にも気付かないまま、腹なり顔なり背中なりの痛みが五体を征服していて、 考えることもままならず丸くなって呻いていた。 (こんな遅くに女がらみで押しかけるのは非常識だったか・・・) 普段の純からおよそ常軌を逸した行動は、まともな暴力に触れたことのない眞一郎に体ばかりでなくショックであった。 (親友ってこともないが、そこそこ繋がりもあったのに・・・どうやらそれも失っちまったらしい) 三代吉や愛子にもそうだが、自分の鈍感は随分ひとを傷つける。となればこれは相応の報いというべきか。 結局、手がかりどころか痛手まで負わされて痛みと後悔の海に浸っていると、頭上から涼やかな声がした。 「そんなとこで寝れるなんて意外と逞しいのね」 「おまえ・・・寝てたんじゃないのか」 石動乃絵。たった今、手酷く自分を痛めつけて追い返した美男子の妹にして、学内きっての変人。 「どこかの常識知らずさんが押しかけるまではね」 人に見られる恥ずかしさから逃れるため、眞一郎は動かすたびに悲鳴を上げる全身を無視してゴミ山から這い出る。 「ぐっ・・・わ、悪かったなぁ・・・ごほっ!」 フラフラとしつつも立ち上がるゴミまみれの少年。皮肉にも純のくれた濡れタオルで汚れた顔や手を拭っていく。 「・・・ごめんなさい」 頭痛と耳鳴りではっきりしない眞一郎にはよく要領を得られない。 「え?あ、あぁ、イツツッ!」 乃絵も別に受け答えは期待してなかったようで話題を切り替える。 「──で、眞一郎はこんな夜更けに湯浅比呂美がいなくなったから探してるのね?」 ゴクリッ 「ん?あ、ああ。母さんも探しに出たみたいだけどずっと戻らないし、携帯も通じないんだ」 「それで、ここにいると思って来たけど、ここにいなかった」 「・・・ごめんな」 「で、どこにいると思う?」 無根拠にここしかないと勝手に決め込んでいたから他に考えもしなかった。 「さぁ・・・えと、友達のとことか?きっとバスケ部の朋与のとこか、もしかして‘あいちゃん‘かも。 ひょっとしたら母さんともう会っててどこかで説教食らってるか・・・」 実際はレイプ集団と殺し合いを演じた挙句、宇宙ハンターと私設軍隊の抗争に巻き込まれて生死の境を彷徨っていた。 などと知る由もない眞一郎の話をじっと聞いていた乃絵は、少し沈黙したまま暗い夜空の向うに眼を向けた。 遠くの彼方で微かに光が瞬くが、地下の送電線の緊急修理という名目で交通封鎖をしているので誰も疑問は抱かない。 「そうね・・・多分、全部外れ。だから一番ありえない・・・ううん、あってほしくないと思うアテを探せばいい」 振り絞った答えをおざなりに否定されたうえ、不明瞭かつ不快な答えに、なんだか腹が立ってきたが、ふと雷轟丸のことが浮かぶ。 あの無鉄砲な黒い羽の最期にはどういった伏線も予報もなく、ただ結果のみが横たわっていた。 となると、この暗闇で影さえ掴めない比呂美にも同じことが起こっている、ということなのか。 ただの偶然、運のツキ。こちらがいくら注意を払っても拭えない現実の隙間に落ちてしまったのならば、どうすればいい? 「どうすればいい?」 「さぁ、私には分からない。でも眞一郎にはきっと分かる」 なんという謎かけか。自分には出来ないといってどうして俺には出来る!? 「どうして!?」 乃絵の瞳が眞一郎を捉えて、煌くように微笑む。 「あなたが彼女を探しているから。どんなに離れていても、想い続ける限り仲上眞一郎と湯浅比呂美の絆は切れないわ」 澄んだ明快な言葉で、彼女は続ける。 「きっと見つかるわ。あなたの足がそこに向かっているのだから」 不安で曇っていた胸のうちに風が吹きぬけた心地になる。 探すしかないのだ。それはきっと自分にしかできないし、ほかにできることもないのだから。 「わかった!ありがとな!」 一旦気持ちが奮い立つと、これ以上の長居は無用とばかり、自転車を立て、よろめく足を踏ん張って駆け出した。 外灯に導かれるように奔っていく眞一郎を静かな笑顔で見送った乃絵は、その背中が見えなくなるとそっと呟く。 「・・・でも、探すことを諦めたら見つからない。どんなに傍にいても絶対に・・・」 つづく truetearsVSプレデター3 ,. - 、 〈〉 毎度ようこそのお運びで厚く御礼申し上げます。 彡`壬ミ || ttパロ書きプレデターでございます。 用ノ哭ヾ二=G < 〈_〉〉=={ || 保守及び新作投下し易い空気を作るためだったのに、 {{{.《_甘.》 || 現行連載最古にして今スレ最長になってしまった「truetearsVSプレデター」。 {_} {_} || おかげで記念すべき‘20‘まで到達。今回は総集編です。 ム ム スルーしてたあなたもこれだけ読めば安心! 概要・・・truetearsにプレデターがきたら、というお話。の筈が、もはやプレデターの世界にttが来てる。 あらすじ・・・ある晩比呂美はレイプ集団に襲われる。恐怖の中覚醒した比呂美は、彼らを返り討ちにする。 彼女に敬意をもってプレデターが現れるが、それを追って大企業ユタニの私設軍も登場。 果たして比呂美とプレデターの出会いは何をもたらすのか。 各話紹介 430 ある晩、お使いに出た比呂美は大学生レイプ集団に路上拉致される。 433 一度は屈した比呂美だが、突如反撃にでる。 435 瞬く間に5人を葬り、ついに1対1に。 438 敵の男もとうとう本気になってきた。 441 一進一退の攻防が続くが、男のパワーに叩き潰される比呂美。危うし! 446 危機一髪、少女は生き残る。しかしそれもつかの間、プレデターが現れた! 457 おわり 466 やはり続く。プレデターとしばし心を通わせる比呂美。 479 メタネタ。いみはない。 485 プレデターに襲い掛かる大企業ユタニの戦術部隊。 487 富山が戦場となる。 488 逃げようとする比呂美を襲うレイプ集団の生き残り。 489 だが修羅場をぬけてきた比呂美の敵ではなかった。しかしその直後、比呂美の脇腹を銃弾が抜けていった。 496-497 カーセックスに励む丁稚とママン。 527 頑張るプレデター。 534 比呂美を探す眞一郎は4番のところに押しかけるが、からかわれて追い返される。 567-568 乃絵は眞一郎を励まし、道を示す。
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前truetearsVSプレデター4 憔悴した眞一郎は駅前にある、多様な店舗を内包した 若者向けの総合施設、コンプレックスで暇を潰していた。 「・・・どこもかしこもカップルばっかですか・・・」 愛子を強姦未遂した今となっては比呂美に合せる顔がない。 だから、もしもう家に戻ってるんじゃないと思うと、帰る気にはならなかった。 それに愛子も三代吉も警察に話す風には見えなかったが、 友情が決裂した今となってはそれも甘い観測でしかない。 案外、警察と父がが泣き叫ぶ母をなだめてるんじゃないかと考えると、胸が締めつけられる。 「ん・・・今日、発売日だったか」 三代吉が購読している漫画雑誌の最新号が並んでいる。 もう借りられないのだから、立ち読んでしまうか。 パラリとページを捲って、適当に読み進めていく。 気が滅入っている時は意外と、関係ないことにハマリやすい。 「・・・」 新人賞の作品紹介ページが目に入る。 物書き(志望)の端くれの眞一郎としては、まぁ参考になることも色々とある。 それに同じように頑張る人間を知るというのは励みになるのだ。 (大賞出たんだ・・・って、富山県民じゃん!) 何気なく視線を移したページで、彼の指が止まる。 多分野であっても同郷というのはどこか誇らしい。 しかしやがて・・・心臓さえ止まったかと思った。 (あれ・・・なんかこれって・・・) 最初は何か奇妙なデジャブの感覚、しかしそれはゾクゾクと背筋を這い回る悪寒となって、 終いには歯の根が震え、喉は擦れて、膝が踊ってしまうほどの衝撃が身を貫いた。 「『轟天号と地べた』・・・って、何だこれ?」 よく分からんタイトルだが、どことなく覚えがある。 というか、少ない紹介ページから分かるその内容は、何か気になった。 それに作者名─‘石垣 純太郎’─って、な~んかすごく誰かに似てる気が・・・。 たまらずレジで雑誌を買うと、逸る血気を抑えて付近のネットカフェに入ってPCを起動し、 出版社のサイトの新人賞のページを開く。大賞以下何人かはその内容を閲覧できるはずだ。 そこに描かれていたのは・・・ 「パ・・・パクリじゃん・・・」 「雷轟丸と地べた」。仲上眞一郎が製作している絵本の内容そのままのものが、 しかし漫画の文法にそって、非常に大胆かつ情感溢れるスタイルでそこには描かれていた。 (・・・ど、どうして?・・・盗まれたのか!?) 作者のプロフィールを読めば大まかに経歴は分かる。縁深きひとならそれで身元は知れるのだ。 「石動 純・・・だ」 突発的な事態、自分と同じ顔をした誰かが世に出歩いていて、こっちの自分が嘘といわれたような不安に襲われる。 「ここ、これが噂の・・・アレなのか・・・?」 創作活動において‘内容が被る’実は意外と珍しくもない。 というよりも長く続けていれば、必ずぶつかる自然現象だ。 物語の快感則は定型化しており、作り手の増加と読み手の好みを反映すれば、多少似通うのはもはや当然だ。 そもそも石動乃絵をきっかけとして始まった物語が、石動純の知らぬはずもない。 やつに作家の才があるならば、日常の話題が被るのはあり得ることだ。 「あいつ漫画まで描けるのか?」 一見意外と思えるが、豊かな社会性、スポーツを中心とした経験の深さ。 不幸な生い立ちに、変人の妹まで抱えてるのかだら内から湧くネタには困らないだろう。 嫌味にもてるルックスも、タレント化した流行のクリエイターといえば納得だ。 コネと謗る気はないが、出版不況のご時勢、彼なら恰好の話題にもなる。 いや、別に非難する云われもない。 てっきりスポーツ進学でもするかと思ったんだが、無茶な志望に出てやがる。 それとも漫画賞は即、大金の入るチャンスだから、そっち目当てなのかも。 自分のように創作に将来をかけてる人間には信じがたいが、 そーいう利だけでパッと動いて、チャチャッと稼ぐヤツもいるらしいじゃないか。 「でも・・・なんで俺がこんな目に・・・」 それらはあくまで条件を揃えた、仮定の可能性を埋めただけの話。 実際こんな事態になるなんて、そうそうはあり得ない。 つまり、誰かの幸せのアオリを意味も無くひっかぶる、ということをだ。 眞一郎はガックリと膝を落としてキーボードに突っ伏す。 「・・・これじゃあ永遠に、発表できるわけない・・・」 今後、どこに出しても‘パクリ’疑惑、いや一蹴されるだろう。 精魂込めた作品の発表機会を失う、これはとても痛い。 それに同様の想いを込めた作品を生み出さない限り、長く後悔が緒を引くことになる。 一線の作家ならまだしも、耐性のないデビュー前に これを喰らうと、日の目も見ないまま引退なんてこともある。 と聞いたことはあるが、体験するのとはまた別物だ。 こと眞一郎のように、深い挫折を経ずなんとなしに、しかし強く創作を拠り所にした人間は、 ストレスに向き合えず、作ることへの情熱を捨ててしまうのだ。 (なんか・・・すごく面倒臭くなってきたなぁ・・・) さっそく彼のメンタルも、お定まりの諦めムードに移行する。 強化外骨格=アームスーツの豪腕がプレデターの顔面を狙う。 「おらぁああ!!」 ガゴォッ! 腕を十字に交差してプレデターも受けるが、衝撃を抑えきれず、 そのままなぎ倒される。 「クウゥオオッ!」 空中に吹き飛ばされるプレデターだが、その勢いのまま腰を回転させてアームスーツの 頭部に斬るような回し蹴りを打ち込む。が、 「そんなものかぁあ!」 風を裂くような攻撃を、超AIの驚異的な処理速度が上回り、予知したように片手でガードされた。 「醜い化け物がぁああああっっっ!!」 そしてもう片腕を鞭のようにプレデターのボディに打ちつけた。 「グゥアアアツッッッーーー!!」 大地に叩きつけられ、衝撃が余って弾かれた怪物の体躯はボールのように転がってゆく。 そのまま、撃ち捨てられた装甲車のドアに、衝撃でその鉄板を歪ませるほどぶつかって停止する。 ギギギ・・・ブゥンッ! アームスーツは片腕づつトライアルバイクを軽々と持ち上げ、2台いっぺんにプレデターにブン投げてきた。 「グ・・・クゥアッア・・・」 ブーメランのように飛んでくる二つの巨大な鉄の塊に気付いたプレデターが、間髪スレスレに避けて駆け出す。 ジャキンッッ! そのままシミターブレイド─物干し竿のように長い大型剣─を両腕から伸ばして アームスーツへ矢のように突進するプレデター。 「無駄な足掻きをおおっ!」 アームスーツの巨大な両椀がドリルのように回転して、竜巻のような破壊券となる。 ガキイイィゥイーッ! 2対のシミターブレイドと、回転椀が激突して火花が弾ける。 そのまま両者引かず、パワーが拮抗した鍔迫り合いになるが・・・ 「貴様ごとき殺人狂いの化け物がぁっ!」 アームすーツンの機動力ががプレデターの腕力を上回って、押しのけた。 「人類科学は最先端の結晶でぇ・・・」 プレデターも隙を与えず、千手観音のようにシミターブレイドを高速の連撃で応戦する。 が、スピードにおいても戦闘システムの対応力が、精緻に合せ、空中で、腕が幾度も交差する。 「選ばれたスペシャルなオレ様にいっ!」 腹に潜り込んだと思ったプレデターのブレイドを、アームスーツの指が掴んでいた。 「敵うわけがないっっ!!」 そのまま、もぎ取るようにしてシミターブレイドを根元からぶち折った。 「クゥアアッア!?」 正面からの決戦に勝機を見出せない宇宙のハンターは、後ろに振り返ると一気に距離をとった。 そして、付近に建っている送電線用の50mはある鉄塔まで退避すると、 その壁面をジャンプするようにして、どんどん上に駆け上がっていく。 狭い場所の方が、体躯の大きい敵を向かえやすいし、 足場の少ない高所であれば獣のプレデターのほうが動きなれているからだ。 だが、 「あらゆる環境に対応し、制限されない・・・」 アームスーツのロケットパックが噴射すると、高熱が唸るように吼えて、3mはある大型機械が浮き上がった。 「それが強化外骨格たる所以っ!」 そのまま、獲物を狙う鷹のように天空に飛翔すると、ミサイルのように鉄塔に向かう。 「うそ・・・」 巨大ロボット(正確には異なるが)と巨大怪獣のぶつかり合いを呆然と見つめる比呂美。 下手に動けば、巻き込まれかねないと、 さっきまで出ようとしていた落とし穴の淵にしがみついて隠れるしかない。 しかし、工学には素人とはいえ、人の作った象のようにデカイ機械の性能たるや。 金メダリスト体操選手のように軽やかに動き、果ては天使のように(見たことはないが)浮き上がるとは、 目の当たりにしても信じられない。今宵はそればっかだけど。 「とても、勝てないわよ・・・」 プレデターに自分たちは翼だ、といったがあくまで比喩だ。本当に、飛ばざるものを飛ばしてしまう力があるなんて。 あんな禍々しい兵器が、しかし夢に描いていた天空を制する翼なのか。 あれは自分を殺すものだ思いつつも、その強大なパワーに比呂美は惹かれていた。 「なんだ、あれは・・・」 石動 純─寄生生命体と同化して、黒体の怪物となった青年はアームスーツの力に驚嘆する。 あんなマシンはプレデターの博士─プロフェッサーから知らされていない。 心身を強化され、尋常でない力を備えられたからこそ分かる力量の差。 少なくとも自分の牙や爪が、あの分厚い装甲版を貫くとは思えない。 「しかし、あいつがプレデターを殺してくれれば‘試練’である俺の手間も省けるのか?」 孤軍のプレデターを人類に捕獲されないために仲間たちが助けるハンデとして、 自分は改造され使わされた。従わなければ乃絵の腕にある装置が派手に吹き飛ぶ。 「何にせよ、もうしばし静観するか・・・」 この寄生体を無理やりとはいえ、譲渡されたのだから相応の働きは要求される筈。 となると、自分があのアームスーツと闘う展開も十分あり得る。 ならば、少しでも両者を消耗させといて損は無い、と冷静に判断する。 しかし、肉と鉄がぶつかり合う激しい戦いに、血が騒ぎ始め加わりたい衝動も感じていた。 空も吹雪いてきた上に、碌な持ち合わせもない眞一郎は 仕方なく、だがどこか納得して帰宅を決めた。 結局比呂美を見つけるどころか、愛子を傷つけ、三代吉を失い、 純に殴られ、新作も頓挫し、乃絵の期待を裏切ることしかできなかった。 そんなあまりに何もできない自分が可笑しくて歌ってしまう。 「しんいちろ~は くつ~のそこの アブラムシ~♪」 帰り道、眞一郎は思いに耽る。 両家の一人息子であるのが疎ましかった。 が、何不自由なく、というか一般家庭よりずっと贅沢に過ごし、 周囲の大人たちが好意と敬いを込めて「坊ちゃん」と呼んでくれる。 そんな身分に知らず自惚れていたんだろうか? ‘オレは大した男だ’と。 彼らは仲上眞一郎という人格を慕っているのではなく、 ‘仲上家’という威光、資産、あるいは父の功績を称えていたのだ。 もちろん彼らに悪意があるわけはない。 人が社会的に営んでいる以上、それに即した付き合いをするのは当然であり、 むしろ個々の人格や資質のみで付き合うヤツがいたら、それは余程の大物かでなきゃ馬鹿者だ。 それに家柄やコネもまた、才能のように親から継いだ財産であり、 世間における自分の一部に他ならない。 実際、高い功績を残す偉人たちは、自身も優れた出自であったり、特別な環境であることが多い。 ‘坊ちゃん’が仲上眞一郎であることに何の不具合があるか。 まぁ、噂のとはいかぬまでも、相応しい振る舞いはしてきたつもりだ。 が、そこまで。 夢を追う自分も、友としての自分も、男としての自分も未熟だった。 ‘坊ちゃん’と呼ぶ人たちには強くても、‘眞一郎’と呼ぶ人には何もできやしない。 無論、これは世間一般男子に特別劣ってる意味ではない。 思春期の思い上がりも、反抗も、諦観も、死にたくなるような葛藤も、大人への通過儀礼だ。 そう、普通なのだ。 だから、普通な自分にこんな異常事態は対応できない。 非常識な性癖を露呈した幼馴染み、それを受け入れた勇敢な(元)親友、 一見清楚なれど心を縛りつけた才女と、普通と言いがたい少女。 でもってその兄にしてこの世の黄色い声援と、輝かしい経歴を一身に浴びる美少年がライバルときた。 こんな関係を、凡人に折り合えたら、それこそ理に反してる。 無理。それが真理。 通念上、今までの混乱が自分にあるとしても、現実的には収拾不可なのだから気に病むことはない。 適当に後悔と懺悔の表明だけはしておくが、だ。 これからは仲上眞一郎としての分をわきまえ、適度に周囲を頼っておとなしく過ごすが吉。 それが自分と、ひいては公益なのだ。 そう結論に至った彼は、雪原の公道を、途中で買った傘を差しつつ、自転車を転がして帰路につく。 その足取りはどこか悠々とすらしていた。 少年特有の世間に対する無力感、それを受け入れることで 葛藤に苛まれていた眞一郎の心は平静を得たのだ。 鉄塔の壁面を駆け上がるプレデターを、獲物を狙う鷹のようにアームスーツが迫る。 ヒュバッ!ヒュバァッ! プレデターの肩口からプラズマキャノンの閃光が奔った。 「うわぁっ!」 アームスーツのパイロットは、航空に専念する隙を衝かれ、回避が遅れる。しかし、 ヴィイイッオオオォォォン! アームスーツのAIが、通信制御用のアンテナを展開して、各種電磁波を放出。 強力な干渉波フィールドを展開して、プラズマ光線を無効化した。 「す・・・すごいぞ!こんな性能はなかったはず!」 バイオニューロンを搭載した自己進化型の戦闘補助システムは、 プレデターの能力を自ら分析して対処法まで構築する成長を見せていた。 「ガウアアウゥッア!」 プレデターもビームの圧縮率を変えて応戦するが、弾道を読まれて避けられるか、 フィールドの周波数も変化して拡散されてしまい、時間稼ぎ程度しかならない。 「今より選手交代だな」 アームスーツが鉄骨の間を縫うように飛び、プレデターの背後に回る。 振り返ったときには、その頑強な腕が、怪物の首を締め上げた。 「貴様が獲物でぇっ・・・」 そのまま額を鉄骨に押し付けて、上へ滑空していく。 ギギギギギギギギ! プレデターの額は皮がさけ、マスクが擦れて火花が弾ける。 「オオオオエアアアアエエァァァァア!!!」 鉄塔の天辺までたどり着いたアームスーツは、プレデターの体を軽々と放る。 「オレ様がハンターだっ!」 そのまま飛び上がると、プレデターの肩膝を鉄塔の天辺に突き刺す形で踏み潰す。 ドシュッ 「ギャオオオアアアアーーーーッッッ!!!」 足を鉄骨で串刺しにされて、宙吊りにされた怪物が悲鳴を上げる。 ドクドクと黄緑色の体液が流れ、鉄塔を伝い落ちていく。 「捻り潰したいのは山々だが、貴様から得る情報は正しく宇宙的価値があるからな。 まぁここで引き裂かれるより、実験場で死ぬこともできず解体されるほうが苦しかろうて」 グリグリと巨大な足で、瀕死の怪物を踏みつけ嬲る。 ピピピッ 「んん?まだ生存者がいるのか?いや、これは・・・」 プレデターの全能力の観察に集中していたアームスーツのAIが、 周辺の環境をスキャンしたとき、ある反応に気付いた。 「民間人の女が紛れたという報告があったが、あれか」 アームスーツの望遠カメラが、彼方で穴に隠れている比呂美を、睫毛の先まで鮮明に捕らえた。 「目撃者は生かしておけんなぁ・・・」 「こっちに来る・・・?」 落とし穴に隠れていた比呂美からは、鉄塔の頂上にいる強化外骨格とプレデターは ゴマ粒のようにしか見えなかったが、それでもモンスターが追い詰められたこと。 そしてマシン兵器がこちらを向いたのは分かった。 「まずいっ!」 トカゲのように穴から這い出す比呂美。しかし、寒さと出血のせいで、 四肢に力が入らずに、くてりと座ってしまう。 ヒュンッ 「?」 それに合せたようにず頭上を風が抜け、髪を撫でた。 ドォオオアアアッッン! そのとき、さっきまで比呂美のいた穴が派手に爆発して、 中に埋まっていた棘やら死体やらを粉塵にして舞い上げる。 「うううわあっ!?」 偶然倒れていなければ、首ごと持っていかれていた。 慌てて雪の上を這い転がって、立ち上がると駆け出す比呂美。 「おしい」 砲を外したアームスーツがバルカン砲をセットする。それが放たれれば 比呂美がチーターのように走れても、たちまち鉄の雨で刻んで、 親だって彼女の名残を見つけられなくしてしまうだろう。 キュィィィ・・・ガガーッッ! 「な、なんだ!?」 しかしそれが発射される直前、足下にいたプレデターが腕のブレイドを ボウガンのように飛ばして、バルカン砲の先端を吹き飛ばし破壊した。 せめてあの少女だけは守る。それは情でも優しさでもなく、彼らの間で交わされた誓いだった。 「きっさまぁぁ!」 鉄骨に刺さったプレデターの足を乱暴に引き抜くと、アームスーツはボールのようにその体を下方に投げる。 いくつもの鉄柱にぶつかりながら、重態の怪物は落下していき、 20mほどパチンコ玉のように弾いて下ったあたりで、手をひっかけて停止した。 しかし、それで精一杯。比呂美のいる彼方に手を差すが、何もできない。 その眼前に噴射で悠然と浮遊してアームスーツが降りてくる。 「あの少女に何か秘密でもあるのか・・・それとも、美女と野獣の真似か? そこで股から真っ二つに裂く様を見てるがいい」 ィィィイイイ、ドウゥッ!! 空中でマシンのロケットが吼えると、ミサイルのように比呂美に突進した。 「カウゥッア!」 鉄柱にしがみついたプレデターが、2枚のレイザーディスクを取り出すと、 その巨大な背中に向けて、手裏剣のように放る。 獰猛な宇宙生物の皮膚もチーズのように斬るそれなら、電磁波バリアーも通じないはず。 ガキッガキイッ! だが宇宙ハンターの背後からの強襲も予期していたAIは、各種全身のマイクロセンサーで 円盤のコースを計算し、軽業のようにかわす。 「無駄無駄ぁっ!」 大軍を単身で蹴散らした狩猟戦士さえ、圧倒する性能に酔いしれるパイロット。そのとき、 「いや、そうでもないな」 人体の声を選別して再生する集音マイクが空気に溶けてきえる呟きを拾った。 「?・・・なっ!!」 ベトオオオッッッオッゥゥーーー! 突然、空を掻っ切るアームスーツを真っ黒い網が包み込んだ。 固く、それでいてしなり、貼りつき、どこまでも伸びるそれが、巨大マシンを捕らえる。 そして網の両端は、プレデターが投げた2枚のレイザーディスクにガムのようにくっつく。 「うおおおおっ!?」 ディスクが渦を巻くように強化外骨格に向かって回転し、グルグルとタコ糸を巻くように縛った。 さらに全身を縛られ、空中で姿勢を保とうとするアームスーツに向かって真上から黒い塊が飛んできた。 「ぉぉぉおおおらぁあっ!」 「ぬあっ!?」 全身を黒く染めた怪人が、巨大マシンの頭部に膝蹴りを叩きこむ。 その衝撃で短い間だが、モニターにノイズが走って真っ逆さまに地上へ転落した。 「ま、まだ仲間がいたのか?」 すぐさま立ち上がって、肩から小型キャノンを出そうとするアームスーツ。 黒い怪人はその背中に蜘蛛のようによじのぼって、武器を蹴り上げてもぎ取った。 「バカヤロウ!富山一の出世頭、石動純があんなマザーファッカーでたまるかよ!」 比呂美の足が止まり、何倍もある機械を踏みつける怪人を振り返る。 「え・・・えぇ・・・?あ、あんなキャラだっけ?」 「が・・・生憎とこの口裂け面じゃあワカンネェか。そうだな・・・オレ様は悪を以って悪を滅する毒薬・・・」 寄生生命体と同化した石動純はギラリと輝く牙を開くと、奇声とともに名乗りを上げた。 「ヴェノムだ!」 つづく truetearsVSプレデター6
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遠く澄んだ空を 見上げ流した涙は あなたを想う この胸の カケラ 流れ星 めぐり合えた奇跡 かけがえのない想い出 記憶のページ 綴ってく 大切に あの日の (keep on believing) まなざし (keep on dreaming) やさしさ (true love) 夢を (true heart) 抱いて (pure and true tears) 信じ続けて いつも遠くで見た微笑を 隣に感じていたい 今あふれだした 想いを伝えたくて 心をつなぎたくて ケンカして別れたクリスマスきれいな街 あなたを想う この胸は 切なくて 流した (keep on believing) 涙の (keep on dreaming) 数だけ (true love) 心 (true heart) やさしく (pure and true tears) なれるはずだよ 振り返り探した雪の中で 無くして気づく想いを 今、伝えたくて本当に愛してると 真実の想いを・・・・・・ 肩に降り積もる雪、ここで待っててくれたね そっと私を抱いて泣いた true tearsいつも私を包んでてね 一緒に夢をみよう ただ、愛おしくて 二人で歩んでゆく かけがえのない愛で